特捜検事逮捕 “地方はイヤだ”が招く「改ざん」

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検察庁。巨悪に立ち向かうはずが、「データ改ざん」までして無実の人を貶めていた(写真:筆者撮影)

 前代未聞の事件が起きた。自らの描いた事件の構図に沿うように検察官が証拠を改ざんしたというのだ。事件の第一報に接した時、かつて懇意だったA検事とB検事の口ぐせを思い出した――。
 筆者は若かりし頃、西日本のある県で検察担当記者をしていたのだが、夜回り先のひとつにA 、B検事の自宅である国家公務員宿舎があった。両氏とも口癖は「筋の悪い事件ばかりやらされる(担当させられる)地方はもう御免だ」。
 事件の筋が悪いのには「れっきとした」理由があった。警察庁から出向してくるキャリアの県警捜査2課長がとんでもない事件を持ち込でくるのである。捜査2課とは主に汚職などの知能犯を扱う。2課長は警察庁から来るキャリアか準キャリアのポストだ。
 東大法学部出身のキャリアは、たいがい2年で地方の県警から本庁に帰る。出世のため地方で成績を挙げたい彼らは、難しい事件を一件でも多く挙げたい。A、B検事と同時期に県警に赴任していたのが、某捜査2課長だった。
 両検事は酒が入ると「あの野郎、これでどうして有罪が取れるんだという事件ばっかし持ち込んでくるんだよ。無罪スレスレだ」と捜査2課長を呪っていた。余計な仕事が増え、有罪が取れなければ自分の大失点となるからだ。
 上述したように地方の検察庁に赴任すれば、某捜査2課長が持ち込んでくるような事件ばかりを担当しなければならない。B検事は「今度の転勤先がまた地方だったら俺は検察庁を辞めてやる」と宣言していた。そして宣言通り辞職した。転勤先がまた同じような地方だったからだ。現在は東京で弁護士をしている。企業犯罪が専門だ。
 もう一人のA検事は、数年前まで大阪地検特捜部で責任ある地位にいた。先日都内で開かれた「えん罪」の勉強会に三井環・元検事が出席していた。三井元検事は大阪高検の公安部長時代(01年)、検察の裏金を内部告発した。このため検察が組織をあげてあの手この手で容疑を見つけ出してきて逮捕したのである。
 筆者が「A検事は元気ですか?」と尋ねると「あいつはストーリーの名手だよ」、三井氏はニヒルな笑みを浮かべながら答えた。
 “Aさんも変わったんだなあ”。筆者は名状し難い感慨にとらわれた。A検事と司法修習生時代に同期だったある弁護士が「Aは正義感に燃えたいい奴っちゃ」と語っていたのを思い出す。若きA検事は公判廷で対峙する弁護士を唸らせていた。それが、「ストーリーの名手」となり下がっていたのだ。サラリーマン的観点から見れば「名手」と言われるまでに昇進したことになるが。
 逮捕された前田検事は押収したフロッピーを改ざんしてまで有罪を勝ち取りたかった。その背景にはずっと陽の当たる場所にいたい、地方には行きたくないという心理が奥底にあったはずだ。サラリーマン諸氏も地方の支社に飛ばされたくないために、データを改ざんしてウソの営業報告をしたりするではないか。

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