「段ボールの寝床」「破れて穴の空いた靴」「路上で真昼間から缶酎ハイを煽り、頬はやせ細っている」……。
ホームレス写真と言えば、公園や地下街などで暮らす彼らの苛酷な生活を撮影したものが目につく。しかもモノクロームで陰影が強調されていたりするので、余計に彼らの生活の厳しさが伝わってくる。
こうしたホームレスに対する固定観念をきれいさっぱりと変えてくれる写真集が近く発売される。『STREET PEOPLE・路上に生きる85人』(撮影=高松英昭・太郎次郎社エディタス)だ。
写真家の高松英昭さんが東京、名古屋、大阪のホームレス85人を6年がかりで撮影した。本のページをめくると「新手のファッション雑誌」かと錯覚する。
ユニクロなどで売っている小粋なカジュアルウェアに身を包んだ男性が次々と登場するのだ。日焼けし、年季の入った男性モデルの顔が、強烈なアクセントになっている。『路上に生きる85人』のサブタイトルが表紙に載っていなければ、ホームレス写真集とは誰も気づかないはずだ。
高松さんは写真集のねらいを語る。「きれいに撮ったのはホームレスに関心のない人たちの心の扉を開けようと思ったから。ホームレスに対する偏見への挑戦でもある」。
一方で「ファッショナブルに撮ろうとしても、おっちゃんたちの視線や指の形が人生経験の豊かさを物語っていた」とも話す。苦労を積み重ねた男たちの人生を捨象するのは、容易ではなかったようだ。
撮影には時間がかかった。1時間がかりであらゆるポーズをとってもらった人もいれば、3回撮り直した人もいた。高松さんは「(じっくり撮っていると)おっちゃんたちの目が『俺をもっと見てくれ』と語りかけてくるのが分かるようになる」と話す。レンズを通した被写体との会話は写真家の醍醐味だ。
6年の撮影期間中には辛い出来事もあった。モデルになってくれた池袋のホームレス、佐藤さん(仮名)が今年2月、インフルエンザにかかり路上で命を落とした。「役所の世話だけにはなりたくねえ」が佐藤さんの口癖だった。
最期まで生活保護を拒否し、病院にもかからなかったのである。
「俺の目はきれいなんだ」と自慢していた佐藤さんの目をアップで捉えた写真は、今も佐藤さんがこの世にいて何かを語りかけているようだ。
写真集を飾る85人のモデルは雑誌『ビッグ・イシュー』の販売員でもある。一冊(300円)売ると160円が販売員であるホームレスの収入になる。
ホームレスが自立を目指すための取り組みだ。モデルの一人植村二三夫さん(50歳)は、「写真集を通じて『俺たち路上生活者は頑張っているんだよ』というメッセージが出せて嬉しい」と日焼けした顔をほころばせる。
写真集『STREET PEOPLE・路上に生きる85人』は、全国書店に先駆けて『ビッグ・イシュー』販売員が6月1日から路上で売る。語りかけてくる「おっちゃんたちの目」に会いに行ってみないか。