「偽装」で生活保護費削減は自民党の公約実現のためだった

厚労官僚出身で生活保護行政に詳しい尾藤弁護士(左)は、厚労省の言い訳に厳しい眼差しを向けた。=16日、衆院16控室 撮影:田中龍作=

厚労官僚出身で生活保護行政に詳しい尾藤弁護士(左)は、厚労省の言い訳に厳しい眼差しを向けた。=16日、衆院16控室 撮影:田中龍作=

 「生活保護費を1割削減する」。自民党が政権に返り咲いた総選挙(2012年末)の公約が統計偽装を引き起こした。

 ツメに火を灯すようにして暮らす人々の生活保護費をさらに引き下げるために厚労省が物価統計を偽装していた。違う指標を比べて物価の下落が大きく出るようにしたのである。

 自民党政権に忖度したのか、政治家の差し金だったのか。いずれにせよ鬼畜の所業である。

 16日行われた野党合同ヒアリングで、そのカラクリが明らかになった。厚労省はそれまで物価指数を計算する際、ラスパイレス指数を用いていたが、自民党が政権に返り咲くと、通常使われていない「パーシェ方式」という計算式を使ったのである。

 この問題を追及してきた元中日新聞記者の白井康彦氏は「物価偽装」と呼ぶ。この時の物価下落率は4.78%とされたが、そのうち3%はパソコンやTVの価格であり、生活保護世帯が必要とする物品と かけ離れて いたのだ。しかし、物価は下がったとして基準が引き下げられた。

 下落率が異様に膨らむ計算式をわざと使ったことに、白井氏は「重大な人権侵害だ」と語気を強めた。

 元厚生省官僚で生活保護行政に携わっていた尾藤廣喜弁護士は、次のように追及し、厚労省の手法に疑問を呈した―

 「まったく納得できない。問題ある方式にわざわざ選んで変えた、なぜそういう選択を厚労省ができたのか?」と。

自民党が政権に返り咲くと、すぐに生活保護費の削減が打ち出された。「生きてゆけなくなる」。車イスの男性は懸命に訴えた。=2013年1月、厚労省 撮影:取材班=

自民党が政権に返り咲くと、すぐに生活保護費の削減が打ち出された。「生きてゆけなくなる」。車イスの男性は懸命に訴えた。=2013年1月、厚労省 撮影:取材班=

 厚労省の反論がふるっていた―

 「生活保護基準は毎年改定されてきたが、平成10年(1998年)くらいから厚労大臣が判断していた。民主党政権時(2009~2012年)には物価が下がっているのに据え置いたこともある」。

 専門家の意見というより、むしろ厚労大臣の判断で生活保護基準が左右されていたことを厚労省が認めた瞬間だった。

 「要は自民党が選挙に勝ったから、厚労大臣が大幅に下げろと指示をして、何か理屈がないかなと思って論理を持ってきた」。国民民主党の山井和則議員が、事の真相を指摘した。

 生活保護基準の引き下げは、最低賃金や住民税の非課税などに連動する。生活保護に連動するのは38制度(2012年1月現在)にも及ぶことが分かっている。就学支援、介護保険料、公営住宅家賃の減免…などだ。

 物価統計偽装の犠牲者は生活保護利用者ばかりでなく庶民全体にまで広がる。道理で私たちの生活が苦しいはずだ。

厚労省の矢田貝泰之・保護課長は苦しい言い訳に終始した。=16日、衆院第16控室 撮影:田中龍作=

厚労省の矢田貝泰之・保護課長は苦しい言い訳に終始した。=16日、衆院第16控室 撮影:田中龍作=

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