野宿者への厳しい施策で有名な渋谷区。桑原敏武区長が、きょう、日本外国特派員協会で記者会見した。
桑原区長は「公園は(野宿者が)炊き出しをする場所ではない」と のたまった 御仁である。
渋谷区は近くLGBT (レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダーなど性的少数者)にパートナーシップ証明書を発行する条例案を議会に提出する。
「渋谷区の文化は他者を思いやり、尊重し、互いに助け合って生活する伝統と、多様な文化を受け入れ発展してきた…寛容性の高いまち…」。桑原区長は条例案が登場した背景を得々と述べた。
変だ。渋谷区の野宿者行政を見る限り、区長が言う「思いやり、寛容性」を信じることはできない。
渋谷区は宮下公園をナイキパーク化する(2010年)際、野宿者を強制排除している。
東京地裁は強制排除を違法と指摘したうえで「野宿者に損害賠償を支払うよう」渋谷区に命じる判決を言い渡している。
最近では野宿者に公園の水を使わせないようにするために水道の蛇口を閉めたりもしている。水は人間の生存にもかかわる問題だ。
筆者は上記の事実を挙げながら質問した。「区長の言う思いやりと野宿者への対応は矛盾しているのではないか?」と。
桑原区長は「水飲み場を作ると人が集まりやすい。地域から苦情が来る」などと答えた。
インディペンデント・メディアの記者は「野宿者は多様性には含まれないのか?」と追及した。
桑原区長は次のように答えた―
「あそこ(宮下公園)にはそういう人(保護すべき対象の人)はいない。専門的な人がどこからか、組織を持って来る。政治的に利用している。訳の分からない主義主張のために譲歩する必要はない」。
とんだ認識違いだ。支援者によれば「渋谷区だけでも野宿者は100人以上いる」。
彼らのほとんどは炊き出しを求めて宮下公園に来る。炊き出しの際、200食近く用意しなければならないのはそのためだ。
~同じマイノリティーでも天と地ほど違う対応~
(野宿者強制排除につながった)ナイキパーク誘致を主導したのと、今回の「LGBTパートナーシップ証明書」発行を提唱したのは同一の区議会議員と言われている。この区議は今期限りで引退する桑原区長の後継者だ。
同じマイノリティーなのに天と地ほども違う、LGBTと野宿者への対応。あまりの温度差には、違和感を覚えてならない。
「ファッショナブルな施設や政策は地価を上げるが、野宿者のいる公園は地価を下げる。渋谷区の言うダイバーシティー(多様性)とは、そういうことだったのか」。支援者の一人は憤る。
実際、桑原区長はきょうの記者会見でも「渋谷はファッションとデザインの街」と自慢した。
多国籍企業と結び付いての営利追求。新自由主義に走る渋谷区の姿からは、LGBTへの思いやりなど微塵も感じられない。
「私には邪念はありません」。桑原区長は去り際、わざわざマイクに向かって言った。その言葉はストンと腑に落ちなかった。
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