「汚染水の影響は完全にブロックされている」発言(昨年9月IOC総会)が示すように、安倍晋三首相の言葉は根拠のないものが多い。
首相が述べた「風評被害」「健康問題は全くない」などについて山本太郎議員が質問主意書で追及したところ、わけの分からない答えが政府から返ってきた。
『週刊ビッグコミックスピリッツ』の人気漫画である「美味しんぼ」が福島の人々の健康被害を描写したところ、政界が一斉に反応した。「美味しんぼ」の表現が風評被害をもたらす、というのだ。複数の閣僚がそういう趣旨のコメントをし、地元自治体は出版元の小学館に抗議の申し入れをした。
安倍首相に至っては“被害”を打消すため福島に飛んで行った。首相はサクランボを食べてみせた後、「根拠のない風評には国として全力を挙げて対応する」とまで述べた。出版元や原作者には大変な圧力である。
風評被害とは辞書によれば「事故や事件の後、根拠のない噂や憶測などで発生する経済的被害」(大辞林)である。
原発事故によって放射性物質は大気中、海洋中へとまき散らされ、国土や海を汚染した。農作物や海産物も当然汚染される。これは紛れもない事実である。風評とは呼べないのではないか?
山本議員は「風評被害」の定義を明確に示されたいとした。これに対する政府答弁は「確立された定義はない」というものだった。
この理屈で言えば、実害が発生していても定義さえなければ風評という言葉で ごまかす ことも可能になる。
安倍首相は東京にオリンピックを誘致するためのIOC総会(昨年9月)で「健康問題については、今でも現在もそして将来も全くないということをお約束いたします」と発言した。
山本議員は「いかなる根拠に基づく発言か?」と質した。政府から返ってきたのは驚くべき答えだった。
政府は食品の安全規準を持ち出し、しっかり規制しているので安全であるというのだ。バカじゃなかろうか。大気からの被ばくもあり、それは現在も続いている。3年前にさかのぼれば「初期被ばく」もある。子供だましにもならない。
山本議員は首相の「汚染水の影響は完全にブロックされている」発言(IOC総会・昨年9月)についても追及した。「科学的根拠がなければ発言の撤回を求める」とまで迫った。
政府の回答は次のようなものだった―
東電福島第一原発の港湾内0.3平方キロメートルに完全にブロックされていることを指す。港湾外における海水の放射線データは原子力規制委員会等のモニタリングの結果によれば、放射性物質の濃度は検出されないほど低いか基準濃度をはるかに下回っている。よって、発言の撤回は不要である。
ところが東京新聞取材班が原子力規制委員会のデータをもとに分析したところ、汚染水は沖合の海にまで拡散し続けているというのだ。(5月17日付・同紙)
重大な事柄について言葉の定義もない。事実認識を問うと子供だましのウソでかわす。これが安倍発言の本質だ。首相のデマは風評被害ではなく紛れもない実害ではないだろうか。