インターネット選挙運動の解禁に誰よりも強い関心を示している人たちがいる。選挙データベース業者でもネットおたくでもない。新聞・テレビの関係者だ。
去る1月31日、自民党本部で開かれた「インターネット選挙に関するプロジェクトチーム(PT)」の会合。野党との協議に向けた自民党案がまとまる会合だった。
会合は冒頭挨拶のみ公開で、中味の議論は非公開となった。平河クラブ(自民党記者クラブ)加盟各社の記者たちは、「壁耳」で議論の行方を追った。非公開の会議で記者が壁耳をするのは常識だが、これほど懸命な壁耳は見たことがない。
「●●議員がこんなことを言ってます…」、記者たちは社のデスクに電話で報告した。会合が終わると各社のカメラマンたちは会議室になだれ込む。これが殺気立っているのだ。
ネット選挙がどのように運営されようとも、新聞・テレビの本来事業とは関係ないはずだ。彼らがなぜここまで真剣にネット選挙に関心を持つのか。
第一の理由は、選挙広報や政党の広告を独占できなくなるからだ。選挙期間中ともなれば、新聞紙面やテレビのCMスポットは、候補者の公約や政党のアピールが花盛りとなる。新聞社やテレビ局には莫大な広告収入が入る。
ネット選挙が解禁されれば、広告収入の一部をネットに取られることになる。会合後の記者会見でクラブ詰めの記者が「なぜバナー広告を認めるのか?」と質問した。
PTの平井卓也座長は「新聞・テレビで比較した場合、ネットだけ使えないというのはおかしい」と答えた。至極もっともである。
ある大手新聞社で選挙デスクを務めた知人は「新聞社にとって選挙は一大収入源なんだよ」と説明する。
第二の理由は世論への影響力、政界への影響力が削がれることだ。新聞・テレビがどう報道するかによって選挙結果は左右されてきた。政党にとっても各候補者にとっても死活に関わる。
政党や政治家はマスコミと良好な関係を築くことに力を注いできた。逆に言えばマスコミが政界に影響力を行使する力の源泉は選挙なのだ。ナベツネ翁が政界の“相談役”と崇められているのは、こうした事情もある。
6日、与野党10党は参院会館でネット選挙解禁のシンポジウムを開き、夏の参院選挙までに公職選挙法を改正することで一致した。
新聞・テレビの横ヤリでバナー広告が見送りになる可能性は残しつつも、参院選挙はネットが威力を発揮しそうだ。
インターネットとりわけSNSは夥しい数の『個』によって成り立つ。わずか数社で大衆に影響を及ぼすマスコミとは全く性質が違う。
インターネット選挙運動の解禁はネトウヨを組織的に動かせる自民党には優位だ。だが他党にとっては雲をつかむような状態が夏まで続く。乗り遅れは致命傷になりかねない。ネットと選挙の両方に詳しいスタッフを持つ業者には今、政党や政治家からコンサル依頼が相次いでいる。 ~続編おわり~
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原子力規制庁の情報漏えい事件などにより、『ネット選挙解禁(続編)』の掲載が遅れたことをお詫び致します。