クリミア州議会前に貼り出された広告に人々の熱い視線が注がれていた。若い世代は携帯電話の内蔵カメラで撮影し、高齢者は まじまじ と見つめる。
広告の内容は、ロシアとウクライナの生活水準の比較だ。「サラリー」「医療」「年金」…庶民の生活に密接に関わる分野の数字が並ぶ。ウクナイナ(クリミア)とロシアを対比しているのだ。
・平均月収:ロシア=6万3,700円、クリミア=2万7,700円。
・年金:ロシア=2万4,700円/月、クリミア=1万4,100円/月。
・医療:ロシア=病院建設、医療機器などの医療財政は国家が100%負担、
ウクライナ=政府が60%、国民が40%負担。
ロシアは健康保険への加入が義務付けられているが、ウクライナは健康保険がない。病院にかかった場合は全額自己負担である。
以上はあくまでも貼り紙広告に書かれている数字だ。それを見つめていた大学准教授のベロニカ・イリヤナさんは「この数字は本当だ」と指摘する。ベロニカさんの知人の大学教員はロシアに移り住んだら月収が4倍になった、という。
勤め先の国立大学からベロニカ准教授が得るサラリーは2万4千円/月。この収入で“家賃”を払い、10歳の息子と病気の母を養ってゆかなくてならない。
「これでどうやって暮らしてゆけるの? 大概のクリミア人は、まともに働いていても暮らしていけない」。ベロニカ准教授は大学の授業の合間を縫うようにして通訳や翻訳のアルバイトに励む。アルバイトのおかげで何とか一家を養って行けるのだそうだ。
救いは“家賃”が月7千円と安いことだ。家は「住宅共同組合」が貸与する。家賃にはガス、暖房用スチーム、お湯、水道代が含まれている。驚くべき住宅政策である。ソ連時代の名残の「住宅共同組合」のおかげだ。ソ連の一員だった頃はもっと“家賃”が安かった、という。
「ソ連時代、ホームレスはいなかったが、独立後は“家賃”が高くなり、ホームレスを見かけるようになった」。ベロニカ准教授は話す。
家賃がバカ高い日本では おびただしい 数の人が住居を失う。道理だ。
クリミアの人々にとって「強いロシア」とは「豊かなロシア」なのである。クリミア通信社によるとプーチンは労働省にクリミアの人々の年金を引き上げるよう指示した。