前政権の「原発ゼロ」をいとも簡単に捨て去り「原発をベース電源」へと180度転換させた経産省資源エネルギー庁。それを定めた「エネルギー基本計画」は、年明けにも閣議決定される見通しだ。
ちょっと待て、まだパブコメを募っている最中ではないか。国民の意見も聞かないまま、どうして重要なエネルギー政策が決まるんだ?
福島の住民や環境団体などがきょう、国会内で経産省エネ庁と交渉を持った(主催:FoE)。3人の若手中堅官僚に「パブコメの公開検討会」と「公聴会の開催」を迫ったが、官僚たちは首を縦に振らなかった。
「神経を逆なでされています…(中略)こんな案(原発をベース電源)が出てくること自体信じられない。パブコメを考慮する気があるんですか?」机を叩きながら詰め寄っているのは福島市に住む佐々木慶子さんだ。
特定秘密保護法に関するパブコメでは約8割もが「反対」したが、政府は一顧だにしなかった。佐々木さんはそれを引き合いに出しながら激しく迫った――
「国民の意見を採り入れる気があるんだったら、8~9割が“とんでもない”という意見だったら(計画を)ひっくり返すんですね? 何回もだまされているんですよ。アリバイ作りですか?」
官僚たちはおし黙ったままだ。返答を迫られ、需給政策室長の奥家敏和氏がおもむろにマイクを握った―
「アリバイ作りだとは思っていません。国民からの意見はおそらく多様なものが出て参りますから、専門家から見て…」。奥家室長はシドロモドロだった。
環境団体が「開かれた場で(パブコメを)検討して頂けませんか?」と要望した。だが奥家室長は「決定の場は閣議。行政は(国民の)付託を受けている」と一蹴した。
きょうの対政府交渉で、公聴会は開かれないことがあらためて明らかになった。開かない理由を聞かれると奥家室長は「関係閣僚会議から閣議決定につなげたいと思う」。官僚の傲慢さと言ってしまえばそれまでだが、奥家室長は正直な男である。
郡山市在住の人見やよい さんが、たまりかねて発言した―
「昨年の公聴会では全部反対意見だった。福島の人間は侮辱を感じます。(エネルギー基本計画を)作り変えるなら、国民的議論からやり直して下さい。公聴会を福島でやらないなんてあり得ない。汚染水が出続けてどうしようもないんですよ」。
一時間余りに渡る交渉が終わると3人の若手中堅官僚は逃げるように会場を去って行った。「結論は見えている」とはいえ、パブコメに意見を寄せなければ、多くの国民が「原発推進に反対している」という事実さえもなくなる。それが分かっただけでも、きょうの交渉は実りがあった、と言わねばなるまい。