新大久保や鶴橋で「朝鮮人は出てゆけ」などと連呼するヘイトデモが、政治家の発言に波立っている。
安倍晋三首相が7日、参院予算委員会で「一部の国、民族を排除する言動があるのは極めて残念なことだ」と答弁した。一方で橋下徹大阪市長が13日、「慰安婦(制度)はどこの国の軍隊にもあった」と言い、橋下発言を援護射撃する格好で西村眞悟衆院議員(日本維新)が17日、「韓国人売春婦がウヨウヨいる」と妄言を吐いた。
これまで崇め立ててきた安倍首相から突き放されたことは彼らにとって少なからずショックだったようだが、橋下市長と西村議員の発言は彼らを勢いづかせることになった。
安倍答弁以降、初めてとなった新大久保のヘイトデモがきょう行われた(主催:日本人差別をなくせデモ実行委員会)。デモに先立ち集会が開かれ、リーダーの女性が歴史認識を示した――
「我々のご先祖は日本を守るために戦争をした。侵略戦争はしていない…(中略)西村議員が言った“韓国人売春婦がウヨウヨいる” は、本当じゃないですか。なのになぜ離党届けをださなきゃいけないんですか(西村氏は17日付けで日本維新を除籍)」。女性リーダーは絶叫した。
埼玉県から足を運んだメンバー(会社員・男性=30代)も「西村議員は国士」と話す。男性は「橋下発言」のうち「“慰安婦”については正しい」と言った。
集会に参加した在特会の桜井誠会長に、筆者は橋下発言についての見解を聞いた。桜井氏は「橋下発言の半分は正しい。半分は正しくない。慰安婦(についての発言)は正しいが、“米軍に風俗を使って下さい”と言ったのは正しくない」ときっぱり。
2週間に一度、新大久保に吹き荒れるヘイトデモや街の住人や観光客は忌まわしいものを見るようにしていた。多くは関わらないように目を背けた。
大久保通りでデモが通り過ぎるのを見ていた50代のスナック経営の韓国人女性は、「うるさい、このヤロー! 冗談じゃない!」とデモ隊に向かって怒鳴り、腕を突き上げて中指を立てた。
「橋下の発言だって、政治の上の方の人があんなこと絶対言っちゃいけない。あんまりにもひどすぎる」。
隣にいた友人の韓国人男性は、「自分が逆の立場だったら、慰安婦が必要だったなんて言えると思うかい?言えないと思うよ」と声を揃えた。
「日本に来て30年、日本人男性と結婚して子どももいる。何度もヘイトデモを見てます。これがあるとストレスがたまるんですよ。ゴキブリ出て行けとか、犬野郎帰れとか言われて、石や卵を投げつけられたこともある。ここの韓国人たちは皆がまんしているの。以前、彼ら7-8人に囲まれてつばをかけられたことがある。警察も来たよ」。
「中には私達は彼らとは違うといって応援してくれる日本人もいる。カウンターの日本人達が韓国の国旗を持って「韓国がんばれ」と言ってくれたことがある。その時は涙が出ましたよ」。
「私は子どもも居て、もう帰るところもない。こっちで結婚した人、家を買った人たちもいる。日本と韓国の真ん中が故郷になった。子どもたちがかわいそうです。どうすればいいというのか?お金を払ってくれるっていうのか。こんなデモの写真がまた韓国に送られ、それを見た人がまた怒ると、感情的になることの繰り返しになる。よくない」。こう言ったきり女性は通りを見つめた。
新大久保で働く韓国人の多くは、ヘイトデモや橋下市長などの相次ぐ問題発言を知っている。「そういう考えもある」と理解しようとしたり、あえて見ずにやり過ごそうとしたりしていた。