いかなるヤラセよりも原子力村の意図にかなった催しだった。2030年、全電力に占める原発の割合について国民の声を聞く政府主催の「意見聴取会」が15日、仙台市で開かれた。
そもそも「原発割合」の設定が胡散臭い。選択肢は「0%」「15%」「20~25%」の3つだけ。経産省主導で決めたものだ。日本人の国民性は極端を嫌い、中庸を好む。目論見通り「15%」となれば、2030年になっても原発が20~40基は稼働していることになる。
「0%」「5%」「10%」という選択肢があってもいいはずなのに、3つの内の2つは原発が存続するようになっている。
エネルギー・環境会議副議長である細野豪志環境相の挨拶にも、原発を存続させたいとする姿勢が滲み出ていた。
「クリーンエネルギーに変えるのには時間とコストがかかる。クリーンが進まなかった場合、火力に頼ることになり温暖化が進む。(生産コストが上がり)富の海外流出が懸念される」。細野大臣はひたすら経済性を強調した。“だから原発は必要なんですよ”と言わんばかりだ。
公募の中から抽選で選ばれた9人が意見発表した。内訳は「20~25%」=3人、「15%」=2人、「0%」=4人だ。3人ずつのはずだったが、手違いで「0%」が4人になった。
原発積極推進派の「20~25%」論者の中に東北電力の社員がいた。この人物は「個人の資格」としながらも、意見発表では「当社としましては…」を繰り返した。
「人選からしてヤラセじゃないか」…傍聴席からは怒号が飛んだ。
細野大臣が立ち上がり「ぜひ御静粛に聞いて下さい。冷静に聞いて下さい」と懇願したが、傍聴席からは「抽選からしておかしい」……細野氏のスキャンダルも交えて再び怒号が浴びせられた。
会場は騒然となり聴取会は一時中断した。抽選に当たった105人が傍聴していた。(応募175人→当選130人→当日出席者105人)
次に意見発表したのは東京に住む素材メーカーの社員だ。再稼働を決めた野田首相を褒めちぎった。「国民生活を守るためと言った首相のメッセージは実に力強い。他の政治家も見習うべきだ」。彼は意見聴取会後、筆者の問いに原発メーカーとの関わりを否定しなかった。
聴取会でヤラセの確証はつかめなかった。だが、ここまで分かり易いヤラセがあるだろうか。ただただズサンな催しだった。
政府(国家戦略室)は進行を広告代理店の博報堂に丸投げし、博報堂は下請けのイベント会社に実働させる。博報堂の人間はわずか3人だった。
「0%」を意見表明した地元主婦の言葉が、事態を最もよく表していた―
「意見聴取会があると聞いて、開かれるまであまりにも短かった。インターネット中継していると言っても、インターネットがない人も一杯いる。ネットを持っていなくても(原発問題を)真剣に考えている人は一杯いる」。
「意見聴取会」は全国11か所で開かれ、8月中旬に政府の方針が決まる。意見を述べるのは、わずか99人。期間も1か月足らずだ。福島の大事故を経験していながら、あまりにも拙速と言わざるを得ない。
「国民の声を聞いたうえでの原発政策」…すでに破たんしているのだが、政府のアリバイ作りに利用されることは目に見えている。
《文・田中龍作 / 諏訪京》
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