5日午前10時頃、NTTの固定電話が鳴った。今どき、大概の用向きは携帯電話に架かってくるので、「デパートの配達かな?」くらいの軽い気持ちで受話器を取った。
「原子力安全・保安院の●●ですが、田中さんでしょうか?」。電話の主は営業マンとは程遠い、事務的で無愛想な声で要件を告げてきた。「(3日の)大臣会見で田中さんが質問した件について説明したいので、来られたい」とのことだ。筆者は呼びつけられたのである。
枝野経産相に対する筆者の質問とは、「大飯原発の再稼働を検討していた原子力安全委員会に提出した保安院の資料に改ざんがあるのではないか?」という内容だ。
3月13日の原子力安全委員会に附された資料では、それまで2・16秒だった制御棒の原子炉への挿入時間が1・88秒(700ガルの揺れで)に短縮されているのである。問題は先月27日の院内集会で環境団体から追及された。保安院は意外にもすんなりと「関西電力が言ってきた数字を載せた」と認めた。
制御棒が挿入されるのに時間がかかると入らなくなったりして、原子炉が暴走しシビアアクシデントを招く恐れがある。許認可基準は2・2秒までだ。関西電力が提出し、保安院が了承した2・16秒は安全基準ぎりぎりとも言える。
だが活断層の3連動が現実味を帯びてきたため関西電力は、2・16秒よりも挿入時間を短縮する必要があった。そこで保安院に1・88秒という数字を伝えたのである。
「(原子力安全行政は)電力業界の言いなりではないか?」。3日の記者会見で筆者は枝野経産相を追及した。枝野大臣は「事務方に説明させる」と答えるに留まった。「東京新聞」は筆者が枝野大臣を追及した翌日(4日付け)朝刊で、この疑惑を報じている。
5日夕方、保安院で筆者を待っていたのは、原子力安全技術基盤課の技術官僚のA氏だった。A氏は着席するなり経緯と結論を述べた。「1・88秒という数字は関連情報として関電(関西電力)から来たものを『関電はこう言ってます』という意味で載せた。(環境団体から)要求された削除をするつもりはない」と。
A氏によれば、『1・88秒』が関電から伝えられたのは、原子力安全委員会の検討会が開かれる5日前にあたる8日のことだ。メールで伝えられたため、電話を関電に入れ確認した。後日、保安院の安全審査官が関電の担当者に直接会った。
関電が伝えてきた『1・88秒』という数字について、A氏は「保安院としては審査していない」と、いとも簡単に話した。
原子力安全委員会は保安院が審査し送ってきた報告書を検討する。電力会社が言ってきた数字を検討するのは、手続き上おかしい。保安院の存在理由がなくなるではないか。
筆者は繰り返しA氏に質問した。「保安院の審査を経ずして安全委員会に送ったわけだが、『早まった』とは思わないか?」。
A氏は「思っていない」と首を横に振りながら「関電がこう言ってる、と『なお』書きをつけている」と説明した。
「電力会社がこう言っている」。A氏は語るに落ちた。保安院とは電力会社の代弁機関だったのである。
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