追悼と不安 村山元総理の死去とタカ派総理の誕生

アベ談話に言及する村山元首相。白い眉がピクリピクリと揺れていた。=2015年、鳩山会館 撮影:田中龍作=

村山富市氏がまだ社会党委員長だった頃、大分市のご自宅を訪ねたことがある。

ご自宅のある住所まで来ているのが、それらしき家が見つからない。通りがかりの主婦に「村山さんのお宅はどこでしょうか?」と尋ねると、彼女は「あれ」と指で示した。

すぐ目の前にあるではないか。えっウソでしょ? あばら家なのだ。だが表札には村山富市とあった。

氏が総理になると警察のプレハブ警備小屋が村山邸のすぐ傍にできるのだが、警備小屋の方が村山宅邸よりも立派だと冗談まじりに言われたほどだ。

質素な自宅は氏の飾らない人柄を象徴するようだった。総理に就任した際、皇居での認証式に臨むのに着て行く燕尾服がなくてレンタルしたのは有名な話だ。

政界の酸いも甘いも噛み分けた91歳の話に会場は沸いた。=2015年、鳩山会館 撮影:田中龍作=

在任期間561日。政権を突然投げ出したように言われているが、そうではない。総理公邸で寝起きを共にしていた側近によると「ドクターストップがかかったため」という。

本人はもう少し総理を続けたかったそうだ。

氏を語る時、まず挙げられるのが支持層の幅の広さだ。 

参院選では自民党に入れる地元有権者が、衆院選挙になると「村山富市」と書いた。

ゴリゴリの自民党支持者が「トンちゃん」「村山さん」と親しみを込めて呼んだ。

村山氏が齢90を超えても、支持者は「(大分県)知事もトンちゃんには頭が上がらんのじゃ」と自慢した。

「自民党村山派」は、永田町ではなく地元大分が発祥の地なのである。

母校明治大学の講演会で。元首相の後ろは長女由利さん、その後ろが田中龍作。=撮影:及川健二氏=

『村山談話を継承し発展させる会』の藤田高景理事長は、村山氏が総理を務めていた時、社会党本部の国民運動部長だった。最側近の一人だ。

藤田理事長によれば談話の発出にあたって村山首相は並々ならぬ決意で臨んだ。柔和なトンちゃんが「反対する自民党の閣僚がいたら首を切る」とまで言って覚悟を決めていた。

自らも学徒出陣で徴兵され、戦争の悲惨を知る村山氏の執念だった。

「植民地支配と侵略戦争によりアジアの近隣諸国に多大な損害を与えた」として謝罪した。

歴史的な談話をアジア諸国に対して発出した村山氏が死去し―

入れ替わるように、談話の精神を真っ向から否定するタカ派総理の誕生となりそうだ。

歴史の皮肉というにはあまりに酷すぎる。

~終わり~

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