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反ゼレンスキー派のデモ隊は大統領府の真ん前まで進んだ。プラカードの「DICKTATOR」はDICK=男性器とDICTATOR=独裁者をかけている。=2022年1月19日、開戦直前のキーウ 撮影:田中龍作=
トランプ大統領が「ゼレンスキーは独裁者だ」と言い放ち、親露派の御仁たちをハシャがせている。
果たしてゼレンスキーは独裁者なのだろうか? 田中は印象深い光景をキーウで見た。2022年の開戦直前のことだ。
反ゼレンスキー派の民衆(※)が拡声器を使ってシュプレヒコールをあげながら大統領官邸のすぐ傍まで押しかけてきた。人々は「ゼレンスキーのチンポコ独裁者」とのプラカードを掲げている。※ポロシェンコ元大統領支持者
チンポコというのは、ゼレンスキーがコメディアン時代に男性器でピアノを弾いていたことをからかったものだ。
日本でも総理官邸前のデモは可能だ。しかし大きな交差点の手前までである。ウクライナの場合、(日本の総理官邸に喩えたら)交差点を渡って総理官邸の壁の傍まで行けるのだ。
それ以上にはっきりしたことがある。ゼレンスキーが本物の独裁者であったら、つまり独裁権力を握っていたら、民衆に「チンポコ独裁者」なんて言わせないだろう。
東洋から来た田中のようなフリージャーナリストでも申し込めばゼレンスキーの記者会見に出席できる。実際、田中は出席した。
デモと記者会見に関していえば、日本よりも言論の自由はあった。
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農民は「ロシア軍には一歩たりともウクライナに侵入させない。血の一滴まで戦う」と声を震わせた。=2022年5月、キーウから東に50㎞のゴーゴレフ村 撮影:田中龍作=
ゼレンスキーはトランプを「偽情報空間に生きている」と反論する。トランプのどの認識を指摘しているのか、はっきり分からないので田中はコメントしない。
「偽情報空間に生きている」のは、日本の一部政治家や言論人である。プーチンの呪文と言われる偽情報を人々に垂れ流している。田中が見聞きしてきたことをお話ししよう。
偽情報の幾つかを紹介する。
【マイダンの妄説】
親露派の御仁たちは口を揃えて「マイダンのクーデターでヤヌコビッチ大統領(当時)を暴力的に追い出した」と言う。意図的な誤情報である。
ヤヌコビッチ政権の治安部隊は最後まで市民を射殺していたのだ。暴力的に市民を潰そうとしたのはプーチンの傀儡ヤヌコビッチ政権側だった。
国民との間で約束していたEU加盟をヤヌコビッチ大統領が反故にした・・・それに怒った市民たちがマイダン(独立記念広場)に集まり始め、あれよあれよという間に大がかりなデモとなったのである。
デモ参加者たちは確かに駐キーウ米国大使館から日当をもらっていたが。
これをクーデターというのなら、エジプトの民衆がムバラク大統領の独裁に抗議してタハリール広場に座り込んだのも、クーデターになる。丸腰の市民が軍隊に囲まれても座り込んで抗議し続けることがクーデターになるのだろうか?
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『30』はソ連からの独立30周年。子どもの笑顔は正直だ。2021年12月、大統府領府前 撮影:田中龍作=
【NATO東方不拡大の妄説】
米国のベーカー国務長官がソ連崩壊直前にゴルバチョフとの間で約束したとされる「NATOの東方不拡大」もロシアのプロパガンダである。
ベーカー国務長官は「東西ドイツの統一にあたって西ドイツに駐留していたNATO軍を東ドイツにまで広げるか?」をゴルバに問うたのである。
あくまでも統一後のドイツ国内のことなのだ。
プーチンはそれを都合よく東欧全体に当てはめた。まさしく牽強付会だ。
ロシアのプロパンガンダは上記の他にも幾つもある。「ドンバスの住民虐殺(ミンスク合意のことか?)」「年金をもらえないロシア系住民」などだ。
兵庫県知事選挙が示すように日本人はコロっと騙される。プーチンは立花よりももっと巧妙でスケールも大きい。気が付いた時はもう遅い。
~終わり~
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