台湾の政治学者から直接聞いた話だ。中国は台湾海峡で華々しく軍事演習しても、海峡両岸関係協会(中国側)と海峡交流基金会(台湾側)のチャンネルを通じて「●時●分、●●の海域にミサイルを撃ち込むからね」と連絡してくるのだそうだ。
同じ国だった時期もある隣接国同士という点では、ウクライナとロシアの関係と似ているが、ロシアからウクライナにミサイル発射の連絡はない。
ただ親戚や友人知人が両国に分かれて暮らし、いくらでも情報が入ってくるという点ではよく似る。経済のつながりも強い。
ウクライナでロシア資本のホテルに宿泊すれば、誤爆がない限り爆撃されることはない。
ロシアが2014年からワグネルを使ってドンバスで戦闘を展開しているということもあり、口コミによる軍事情報もキーウにもたらされてくる。
「ウクライナ本土(キーウ)に侵攻せよ」。ロシア軍の指示書をドンバスで読んだという人物に田中はキーウで会ったことがある。2022年2月初旬のことだ。
それから間もなく(2月24日)、プーチンは特別軍事作戦を発動し、ロシア正規軍がドンバスはもとよりキーウにも攻め込んできた。
人的つながりは最強の情報獲得ツールである。ネットなんぞではない。BBCの報道が圧巻なのは、このヒューミントを最重要視しているからだ。
キーウはもとより東部にも複数のクルーを配置し、モスクワにも常駐する。優秀な記者はMI6要員を兼ねる。
戦争にありがちな双方の政府によるプロパガンダは、現場取材で、ある程度見抜ける。
親米マスコミは「戦争研究所」(レイセオンとジェネラル・ダイナミックスが設立)を情報源に記事を書いている、との指摘がある。
一方、親露派勢力の情報源は「スプートニク」などである。他、あまたのネットメディアも重宝されているようだ。
要は米、露ともに露骨なプロパガンダ合戦を展開しているのである。善良な日本人は見事なまでに乗せられている。国会議員やインテリ層まで含まれるほどだ。
とかく日本人は自分の信じたい情報を探してくる。結果、不毛な論争が続くことになる。肝心要の情報が不確かなのだから。
太平洋戦争末期、ソ連は満州国境に大兵力を集結させていた。
そうとも知らずに日本はソ連に連合軍との和平の仲介を依頼していたのである。おめでたいことに仲介依頼はソ連の満州侵攻前夜まで続いた。
結果どうなったかは、あらためて述べるまでもないだろう。
ロシア軍がウクライナに侵攻して500日が経つ。そろそろ冷静に情報の真贋を見抜かねばならない。悲劇を繰り返さぬために。
~終わり~
◇
【読者の皆様】
お一人がひと月に一度だけ、五百円を寄せて下されば、『田中龍作ジャーナル』は存続できます。
マスコミが報道しないニュースを伝えます。
皆様お一人お一人の五百円が田中龍作の取材活動を支えます。