政治を諦めてはいけない。映画『ハマのドン』(監督:松原文枝)は、それを改めて突き付けてくる。
官邸が閣議決定すれば「黒を白」にでもできるのが昨今の政治だ。菅政権は2018年、カジノを強行採決で合法化した。カジノの誘致先は菅のお膝元の横浜である。
カジノ王アデルソンが大口献金先のトランプ大統領に働きかけ、トランプが安倍首相(当時)を動かす。菅が引き継ぐ…カジノ誘致の経緯である。日本政治を支配する構図がそこにあった。
それに敢然と立ち向かった男がいた。「ハマのドン」こと藤木幸夫(現在92歳)である。横浜の港湾荷役を親の代から一手に担ってきた藤木は、聖地が汚される、としてカジノ反対に立ち上がる。
市民たちも黙っていなかった。「カジノ誘致反対」の署名集めを展開し、法定数の3倍を上回る19万筆を集めた。
だが市民たちが求めた「住民投票条例案」は議会で否決された。2021年1月のことである。市長選挙が7ヶ月後に迫っていた。
ここからが本当の戦いだった。ドンと市民と野党で「カジノ反対」の市長を誕生させようというのである。
まったくの無名で横浜市立大学教授の山中竹春に白羽の矢が立った。現職でカジノ推進の市長・林文子も再選を期した。菅官邸は国家公安委員長の小此木八郎を推した。
藤木は小此木の父彦三郎と永年の盟友関係にあった。小此木「八郎」の名づけ親でもある。小此木は「カジノとりやめ」を表明して出馬した。
だが、藤木は我が息子同然の小此木陣営には付かなかった。
藤木は1955年からの自民党員である。小此木が手のひらを返したようにカジノ誘致に方向転換するのではないか、と見ていたのだろうか。裏で票を回すこともしなかった。
選挙結果は山中50万6,392票 / 小此木32万5,947票 / 林19万6,926票。
告示前は小此木優位の下馬評もあったが、山中圧勝に終わった。
菅はコロナ対策の不手際も手伝って退陣に追い込まれる。
藤木は「主権は官邸にあらず、主権在民」と選挙結果を締めくくった。
《 ハマを愛した俺が市民と共に立ち上がり、最高権力者であるスガの目論見通りにはさせなかったんだ 》・・・と雄叫びをあげているようにも聞こえた。
3年間にわたってドンとカジノ反対運動を追ってきた松原監督は、「市民が自分の手で政治を変えられる」と喝破した。(文中敬称略)
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映画『ハマのドン』は5月5日から新宿ピカデリー、ユーロスペース他で上映。全国順次公開する。
~終わり~