文・山中千鶴 ライター
浜松市の山あいに位置する鎮玉地区。立地適正化計画という大義名分のもと、各種の行政サービスから切り捨てられようとしている。
何とか人が集う魅力あふれた地域にしようと、主婦たち(※前回記事)だけでなく、オジサンも立ち上がった。
2013年に発足したNPO法人「ひずるしい鎮玉」は、「おじいちゃん」と呼ぶにはまだ若く、かと言って壮年とも言い難い年齢の男性陣が構成メンバーのほとんどを占める。
これまで現役でこの地域を引っ張ってきた男たちが、それぞれの第一線を引退してから、愛着のある地域のためにもうひと肌脱ごうと団結したのだ。
20人近くも集まれば、行政マンや測量技師、司法書士など、現役時代の職業は多岐にわたる。
幼少の頃から付き合ってきているため、お互いの好みや性格、家庭事情なども熟知している。それぞれが得意な分野で活躍できるよう、活動の柱を3つに分けた。
「農」グループでは、ここ数年でめっきり増えた休耕田を甦らせている。大型の耕運機を使って田んぼを起こし、水を入れ、「田んぼオーナー制度」を設けて都市部の希望者を受け入れる。
田植えと稲刈りの時期は、子どもに農体験をさせたいと登録した市内中心部からの親子連れでにぎわう。
鎮玉地域に多く流れる清流を生かして活動するのが「川」グループだ。ホタルの保全活動や、造成したビオトープを活用して、地元に1つだけ残された小学校と連携して環境教育の授業も行う。
夏には街から来るボーイスカウトの子どもたちの活動として、鮎のつかみ取りや流しそうめんを行う。メンバーに大工がいて、生け簀や竹製のそうめん台はあっと言う間に完成する。
単発のイベントや外部との連携を担うのが「里」グループ。訪問者のために地域めぐりマップを作成し、手打ちそばの体験講座や星空観察会などを開催する。
何事も本気で取り組むオジサンたちが肩の力を抜いて楽しむのが、女子大生との交流だ。東京から移住してきたメンバーの つて で、3年前から東京の女子大生たちがゼミ活動の一環で来訪するようになった。地域を探検し、中山間地域の今後を考えた後はもちろん宴会だ。
四角いビールケースに座るのも初めて、鮎を触るのも初めてという女子大生を半ばあきれ顔で見守りながら、語らいのときを過ごす。
異年代との知的交流を面白がっているのはメンバーばかりではない。大学を卒業したゼミのOGも仲間同士で声をかけあい、後輩指導を名目に遊びに来る。「私には“田舎”がないから、訪ねて行ける場所があって嬉しい」と話す。
「定住は望めないにしても、折々に外の人が来てくれるとにぎやかで良いですね」と事務局を担う廣瀬稔也さんは語る。
この地域が向かう未来は、“ふるさと”を求める人に応える「通える田舎」なのかもしれない。
~つづく~