映画『海難1890』は、じつに安直なプロパガンダ・ムービーだ。AKBとEXILEをこよなく愛する安倍首相のキモ煎りで製作された映画だけのことはある。
映画のストーリーはこうだ ―
1890年、和歌山県紀伊大島沖でトルコの軍艦「エルトゥールル号」が台風のため座礁、大破した。
遭難を知って駆け付けた島民たちが海に投げ出された乗組員を懸命に救出する。日本政府は戦艦2隻を出し、生存者をトルコまで送り届けた。トルコ国民の対日感情の良さは、この海難事故の救出劇に由来すると言われている。
それから90年、イラン‐イラク戦争が勃発(1980年)。両国ともトルコの隣国である。
85年、サダム・フセインが恐怖の宣言をする。「48時間後に無差別爆撃を開始する。テヘラン上空を飛ぶ航空機は軍用機、民間機を問わず撃ち落とす」と。しかしイランの首都テヘランには多くの邦人が取り残されたままだ。
日航は「帰りの安全が保証されない限り飛べない」と日本政府に回答。自衛隊機は国会の承認が必要なため、すぐには飛べない。
日本人学校の女性教師が大使館員を前に絶叫する。「このままじゃ、日本人だけが戦火に取り残されてしまいます。どうして日本が日本人を助けられないんです?」
このロジックは、自衛隊の戦地派遣→集団的自衛権の行使容認に用いられてきた。映画の製作意図はすべてここに集約されているようだ。
人々の善意を美談に、そして美談をプロパガンダに仕立てあげる アザトさ が ありあり とうかがえる。
実際にはトルコ航空が救援機を飛ばすまでには、日本側から幾つかのルートで要請があったようだ。それでも自国民より優先して日本人を救援機で運んだことは大英断だったに違いない。
問題は政治臭が漂ったことにある。エルドアン大統領と安倍首相による「両国の合作映画」とされ、両首脳はそろってイスタンブールでの上映会に出席した。
安倍首相は昨年、「『海難1890』を成功させる会」の最高顧問に就任している。
イラン‐イラク戦争時の外相は安倍晋太郎氏。安倍首相の父である。安倍首相は当時外相秘書官だった。
昨年の日本アカデミー賞最優秀作品賞は、アベ首相のお友達である百田尚樹氏の原作による『永遠のゼロ』だった。今年は『海難1890』がノミネートされている。
~終わり~