田中はきょう(5日Monday)も痛む腰を摩りながら街頭に出た。戦場取材の資金を募るために。
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アラブの春。リビアでは、カダフィ独裁政権と反乱軍との戦闘がまだ続いていた。2011年の夏頃である。
エジプトとの国境はすでに反乱軍が押さえていた。田中は検問所でBBCのクルーと共に入国許可を待ち、国境を通過した。陸路である。
リビア第2の都市ベンガジからカダフィの待つ首都トリポリへは飛行機を使うことになった。大阪から東京に飛ぶ感じだ。
航空運賃を払う段階になって驚いた。「Free of charge(無料)」というのである。理由は「撃ち落された場合、補償できないから」だった。
NATOの空爆は続いていたし、政府軍の高射砲だってある。無料は合理的な理由からであった。
乗ったのは軍用機でも貨物機でもない。れっきとした旅客機だった。確かボーイング737だったか。
撃ち落とされることなくトリポリの空港に着陸した際の興奮が忘れられない。
乗客たちは一斉に「アラーアクバル」を唱和したのである。田中は仏教徒なのだが、「アラーアクバル」が当たり前に口をついて出た。
内戦はNATOの支援を受けた反乱軍が勝利し、カダフィを血祭りにあげることができた。
独裁政権を倒したまでは良かったが、数年と経たぬうちに別の混乱と悲劇がリビアを襲うことになった。アルカイダやISISが乗っ取ってしまったのである。
イラクはサダム・フセイン政権の時代の方がマシだったとする専門家も少なくない。
欧米の民主主義を押し付けた結果、あまりにも皮肉な事態を招いてしまったのである。
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田中龍作ジャーナルは国際政治の冷厳な現実を伝えます。