《写真・文 / アナスタシーヤ・フーズィカビッチ 》
キーウ北隣の閑静な住宅地イルピン。首都を陥れようとするロシア軍と懸命に防衛するウクライナ軍との間で熾烈な攻防が一か月にわたって続いた。今回の戦争の最激戦地である。
砲撃と銃撃で住宅という住宅は大きく損壊した。無傷の建物を探すのは困難だ。
中高層のアパートは今なお焼け焦げた臭いが残る。屋根はグニャグニャになって波打っていた。ロシア兵が略奪に入ったため各階のドアはこじ開けられ、一階の窓は撃ち破られていた。とても人が住める環境ではない。
イルピン市長からは「危険だから住むな」とのお達しが出ているというが、当然の判断だ。
一階の部屋からフラフラと黒装束の少女が出てきた。私はおそるおそる声を掛けた。少女は「リザ、16歳」と答えた。幽霊ではなかったのだ。
ロシア軍が侵攻してくるとすぐにジトミールの親戚を頼って家族と共に逃げた。ジトミールはキーウから西へ150㎞ほど行った街だ。
リザは3月28日に解放されると間もなく住み慣れたイルピンのアパートに戻ってきた。
家の中は何もかもが盗まれていた。衣類はもとよりトイレの便器まで。
「心の中から何かを抜き取られたような気持ちだ」。彼女は不快感を示した。
部屋は窓ガラスが撃ち破られているため、風が吹き込んで寒い。
それでもリザはここに住む。「難民キャンプに行きたくないから」と言って。
学校は破壊されているためオンライン授業だ。外国に行ってしまったクラスメートもいる。
「友達に会えなくて寂しい」。
~終わり~
◇
読者の皆様
プーチンによる核攻撃が現実味を帯びてきました。
南部ミコライウ原発近くに戦術核搭載が可能なイスカンダルミサイルを撃ち込んだことも、不気味な暗示となっています。
世界を破滅に導く恐れさえある戦争の行方を見届けさせて下さい。
↓