首都圏の安全な輸送が脅かされようとしている。鉄道の運行という熟練の技が蔑ろにされ始めたからだ。
JR東日本が4月から始めた「ジョブローテーション」という名の人事異動は、「多様な経験を積むことで安全とサービスを向上させることを目的」とする…という謳い文句だ。
会社側から社員への周知によれば、「同一担務の従事期間は10年を超えないようにする」とある。最終的な目的は合理化であろう。
JR東日本輸送サービス労働組合によると4月から7月末までで126人が異動となった。
これまでの人事異動は、駅→車掌→運転士という「ライフサイクル」があり、原則、本人の希望が優先されてきた。
ところがジョブローテーションなる新・人事異動により、駅員がいきなり運転士に配置転換されたりするようになった。(駅員が悪いというのではない)
10両前後の編成で約1500名(定員)もの乗客を定刻通りに運ぶ。練達の技量があってこそできるものだ。つい先日まで改札口にいた駅員に列車を運転させるのは苛酷でさえある。
希望もしない転勤を命じられ、うつ病を発症し、会社を休んでしまう社員もいる。
運転士は国家資格である。苦労して勉強してきたのに駅員に配転させられたりすると、当人のモチベーションは下がる。(駅員が悪いというのではない)
職種だけではない。希望もしない線区に変えられたりすることも社員たちの間で問題になっている。
本人が「山手線での勤務を続けたい」と言っても総武線に変えられたりするのだ。
路線ごとに特徴やクセがある。ここはスピードをこれ位まで落とさなくてはならない。一方、落とし過ぎると定時運行が危うくなるので、あくまでも落とすスピードはこれ位まで…
総武線の場合、信号機が線路の脇にあり、山手線は運転席にある。
持ち場を変えられたりすると運転士は混乱する。信号を見落として、大事故を起こす恐れがある。
一朝一夕にして、その線区で列車を安全に運行できるスキルを身につけられるものではないのだ。
運転士が路線を自分の体のように熟知していればこそ、安全運転と時刻表通りの運行を可能にしていた。
ジョブローテーションはそれを根底から覆す恐れがある。
JR東日本ご意見承りセンターは、田中の電話に「ベテランの運転士が数か月から1年、横について指導する(ので問題ない)」と答えた。
山手線のベテラン運転士は「スピード計を見なくても速度が分かる」と話す。
運転士が居眠り運転をしても、ベテランの車掌が緊急レバーを引いて事故を未然に防いできた。
私たち乗客の安全を守ってきた熟練の技が消えようとしている。
ジョブローテーションは鉄道の歴史始まって以来の改悪といえよう。
~終わり~