ソウル・ヨイドの国会前広場では大統領下野を叫ぶ市民が旗を振っていた。「234対56」。弾劾決議案が大差で可決されると、人々は輪になって踊り始めた――
崔スンシル・ゲートの暴露で一躍、国民に信頼されるメディアに躍り出た新興ケーブルTV「jtbc」は、弾劾決議案採決のもようを特番で中継した。
国会前広場でjtbcのインタビューを受けた男性は「歴史の現場を見るために来た。子ども達に恥ずかしい国にしないように」と答えていた。
番組のコメンテーターは「(キャンドル集会では)市民が成熟した姿を見せた」と評価した。
30年ぶりに100万人以上が参加した11月12日のキャンドル集会でも、目についたのは幼い子どもを連れた市民だった。
生後6ヶ月の娘を連れた家族は、青瓦台(大統領府)から遠くない場所に敷物を広げていた。座り込みというよりは、夜のピクニックという感じだ。子どもをあやす母親の肩には「下野せよ」と書かれたステッカーが貼りつけられていた。
「子どもに生きた歴史を見せたい」というのが親たちの願いだ。こうした親たちは暴徒化することはない。
身動きができないほどの人出で、交通整理のスタッフも特に居ないなか、どうして将棋倒しなど事故が起きなかったのか。
近くのホテルも門を閉ざすことなく、集会に参加した労働者らにトイレを貸したりしていた。参加する者もしない者も、自然に協力ができていたようだった。
韓国では政変の事を起きた日付で呼ぶ。1960年に李承晩政権を倒した運動は4.19革命(サ・イルグ=4月19日)と言われる。朴正熙(後に大統領)による軍事クーデターは5.16(オ・イルユク=5月16日)だ。
朴クネ大統領の弾劾案が国会で可決された今日は12.9(シビ・ク=12月9日)と呼ばれるようになるのだろうか。
オキュパイも過激な衝突もない。平日は普通の市民や学生として、社会の構成員として生きる。だが、毎週土曜日には粛々と行進して大統領下野を叫び、石を投げる代わりにキャンドルを灯す。
植民地時代から連綿として受け継がれてきた韓国の抵抗運動が新たなフェーズに入ったことを実感した。市民の圧倒的な力が、政治を動かした。
「韓国の大統領はこんなにお粗末だ」と、あげつらうだけの日本のマスコミは、大切なことを読者に伝えていない。普通の市民の圧倒的な声が、政治を動かすということを。
~終わり~