柏崎刈羽原発再稼働の前提となる新安全基準を満たすため東電の廣瀬直己社長は先月25日、新潟県を訪れ泉田裕彦知事にベントフィルター設置の事前了解(※)を求めた。泉田知事は、翌日、条件付きで設置を了解した。
社長訪問の後のぶら下がり会見で泉田知事は、「預かる」を繰り返したため、記者団も、まさかその翌日に了承するとは予想できなかった。その衝撃は大きかった。原発推進派のメディアを中心に、あたかも泉田知事が再稼働を容認したかのような印象を与える報道をした。だが知事の真意はそうではなかった。
世界最大級の発電能力を持つ柏崎刈羽原発の再稼働は、赤字に苦しむ東電の財務状況を改善させることが見込まれる。
東電の大株主であるメガバンクの思惑もあり、まるで柏崎刈羽再稼働が決まったかのような動きがある。銀行団が東電の800億円の借り換えに応じることを明らかにしたことだ。借り換えは再稼働が前提と見られているからである。
きょう開かれたメディア懇談会で筆者は次のように質問した。「財務省つまり政府が再稼働に向けてGOサインを出したともとれるが、知事はどう思うか?」
泉田知事は以下のように答えた―
「私はとれないと思う。なぜならば今回条件が付いているんです。それが何かと言うと、これから技術委員会の中のフィルターベントの調査チームを動かすという説明をしましたが、これは健康に影響がある被曝をしうるという時には当然差し替え有りですよ」。
「(ベント)工事を今進めていますけれどあくまで東京電力のリスクでやってるわけで、さらに避難が不可能ということになれば、いわゆる仮了承については無効という条件が入ってるわけです。これは住民に累(被害)が及ぶということになればそもそもフィルターベントは使用できない設備ということです」。
メディア懇談会の後、筆者は事務方の説明を受けた。推進派のメディアが再稼働に向けて動き出したかのように報道したことについて、事務方も困惑している様子だった。
事務方は「ベントに条件をつけたことで再稼働に向けてはむしろハードルが高くなった」と話した。
マスコミは東電が原子力規制委員会に安全審査申請を出しただけで再稼働が決まったような報道ぶりだ。だが、規制委員会が設備上ゴーサインを出したところで、住民の安全が十分に担保できなければ新潟県は簡単に再稼働を認めないスタンスに変わりはない。
泉田知事は今日の記者会見で新潟県の「安全管理に関する技術委員会」の中に「フィルターベント調査チーム」を設置することを明らかにした。チームは新潟県、柏崎市、刈羽村に東電も入る。
泉田知事は住民の避難計画とベントの整合性が取れなければ再稼働は認めない姿勢だ。
◇
(※)
東電は新潟県と「原子力安全協定」を結んでおり、設備の変更などがある場合は新潟県の了解を得なければならない(協定第3条)。新安全基準を満たすためのベントフィルターの設置がこれにあたる。