ここがヘンだよ、日本の原発報道 ドイツ人研究者との対談

トビアス・ヴァイス氏。日本語が堪能な氏はインターネットで日本の新聞報道を細かにチェックしている。=写真:山田旬=

トビアス・ヴァイス氏。日本語が堪能な氏はインターネットで日本の新聞報道を細かにチェックしている。=写真:山田旬=

 筆者はドイツの研究者から3・11後の「原発報道」についてインタビューを受けた。彼は拙サイトを読んでくれているという。せっかくの機会なので海外の研究者がなぜ日本の原発報道に興味を持ったか、相互インタビューを試みた。ここにその一部をご紹介する。

 トビアス・ヴァイス氏。ドイツ国籍の研究者でスイスのチューリヒ大学の博士課程に在学中だ。専門は日本政治。高校生の頃、村上春樹の小説を読んで日本に興味を抱いた彼は、提携する福井大学に留学経験もある。流暢な日本語を操る30歳。

 ヴァイス氏は3・11当時、日本に滞在していた。1週間後に帰国した際、原発事故に対するドイツメディアの厳しい論調と、日本マスコミのユルい論調とのギャップに驚いたことが、研究を始めるきっかけになったという。

 以下、ヴァイス氏とのやりとり。Wはヴァイス氏。Tは田中。

<日本のマスコミはどうなってるの?>

W:ドイツメディアは原発事故を厳しく非難した。日本では事故があったのに原発が話題にならない。東京新聞以外の新聞には(原発に関するニュースが)あまり掲載されない。原発に反対する政党もいくつかあるが、メディアが扱わない。
T:メディアは原発の安全神話に加担してきた。なぜかと言えば日本のマスコミには電力会社から巨額の広告費が流れているから。勝俣会長(当時)は大震災の日(2011年3月11日)、記者クラブOBを連れて中国旅行に出かけていた。それも東電持ちで。私がそのことを追及すると記者席から「そんな質問するな」とヤジが飛んだ。ヤジの主は大新聞の記者だった。

<記者クラブは問題?>

W: 記者クラブの存在は外国から見ると大きく思えるが?
T: ガンだ。日本の報道のガンというより日本のガンそのもの。
W: 福島の原発事故で一番問題だったことは何か?
T: 東電と政府が情報を隠したこと。政府はメルトダウンしていることを知っていて隠し、メディアも知っていたが書かなかった。記者クラブが情報を独占するから権力がウソをついていることを見抜けなくなる。

<反原発の新聞はある?>

W: 朝日新聞はやや反原発か?
T: そんなことはない。朝日もずっと原発賛成でやってきた。日本で反原発のメディアなんてない。
W: 事故以降マスコミはどのように変化したのか?
T: 事故後は手のひらを返したように書き始めたが、それでも日経、読売、産経は、みな再稼働推進だ。
W: 東京新聞は評価されていると聞いているが?
T: 東京新聞も反原発になったのは3・11の後です。既存メディアの中では結構批判的に書いているが、他(の新聞社)はしがらみがあり、追及の手が緩む。事故後、東京電力では一日2回記者会見をやっていた。当初、記者たちはヤクザ口調で質問していたが、2週間くらい経って東京電力が質問する際に会社名と名前を言わせるようになった。とたんに皆、人が変わったようにおとなしくなった。営業から文句がくるからだ。

原発事故後間もない頃の東電記者会見。答弁しているのは武藤栄副社長。右隣りに座っているのは松本純一・原子力立地本部長代理(いずれも当時)。=東電本店 写真:田中龍作=

原発事故後間もない頃の東電記者会見。答弁しているのは武藤栄副社長。右隣りに座っているのは松本純一・原子力立地本部長代理(いずれも当時)。=東電本店 写真:田中龍作=

<ネットの役割>

W: 人々もインターネットで情報を集めるようになった?
T: インターネットがなければもっと隠されていた。メディアがなぜ追及し始めるようになったかと言えば、ネットで本当の事が出て来たからだ。自分の所でウソをついていることが隠しきれなくなった。メルトダウンしたことは分かっていた。

<反原発運動は政治じゃない?>

W: 日本では反原発運動は政治ではないと言われているらしい。反原発運動は政治活動ですよ。なんでみんな政治じゃない、政治はやらないと言うのか?
T: シングルイシュー、つまりどこかの政党を支持すると、他の政党を支持する人が来られなくなるから。政治に関わらずに脱原発だけをやりましょうというスタンスですね。表向きは。

<安倍政権とメディア>

W: 今回(の選挙で)安倍政権が全然批判されないのは変だ。気になります。民主党も前回の(第一次)安倍政権もかなり批判されていたようだが。
T: 対立する政党がない、極端に言えば一党独裁だから。新聞社は経営が厳しいのでひたすらなびく。軽減税率を適用してもらいたい一心だ。

<反原発はなぜ投票行動に反映されない?>

W: 日本では市民と政治が分断されているようだ。投票率が低い。ドイツでは09年に行われた総選挙が今までで一番投票率が低かったが、それでも70%台です。
W: 日本では皆「気にしないこと」になっている。関心がないのか、なくはないんだろうが投票に反映されないのは不思議に思う。
T: 原発事故が起こって初めての国政選挙は自民党が圧勝した。不思議に思いませんか?
W:  自民党は票を増やしていない。なぜ反原発票がまとまらないのか?反原発を掲げる政党もバラバラ。そういうことがよくわからない。
T: 東京では原発問題で、混乱を避けるために被曝を隠ぺいした候補Aを知識人や有名人と言われる人々が推し、被曝隠しを追及する脱原発候補Bを庶民が支持して競り合った。結局脱原発を訴えるBが当選した。海外から見ても知識人であればAを支持すると思うか?
W: 一般的には言えないと思うが、おかしいと思う。その辺は全く理解できないですね。
T:  やはり不思議の国ニッポン?
W: (笑)文化よりは、構造的な問題だと思いますね。権力が自民党に集中したのが長かった。他に投票できるところがない。投票できる受け皿を作る必要がありますね。長期的に見ればやがて日本にも変化が来ると思います。

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