台風14号がもたらした大雨による川の増水で、野宿者(ホームレス)のテント小屋が浸水していないだろうかと隅田川のテラスを見回っていたら、知人のフリージャーナリストから連絡が入った。「(サラ金大手の)武富士が間もなく記者会見を開く」。
『武富士』は9月28日、会社更生法適用を東京地裁に申請し事実上倒産したのだが、10月31日、「会社更生手続開始」が決定された。それを受けて日曜日であるにもかかわらず急きょ記者会見を開くことになった。
野宿者の取材をしている最中にサラ金の記者会見の連絡が入る―これほどの因縁はない。住居を失い路上に弾き出される理由の半分以上は借金だからだ。
知人から「フリーは排除されそうだ」と聞いて余計メラメラときた。筆者は東京・八重洲の記者会見場に駆けつけ、何食わぬ顔で潜りこんだ。フリージャーナリストは片手で数えるほどしかいなかったが、『武富士問題』を暴き出した三宅勝久氏はデンと最前列に陣取っていた。
三宅氏は武富士の取立ての酷さを報道したことで、同社から名誉毀損で訴えられたが、地裁、高裁、最高裁の三審とも勝訴したジャーナリストだ。立場の弱い利用者にとっては神様のような存在だが、武富士にとっては天敵である。
武富士倒産で巷間懸念されているのが、“過払い金”がちゃんと利用者に戻るかだ。“過払い金”とは利用者が利息制限法を超えてサラ金に“返済し過ぎた”金のことである。武富士・管財人の小畑英一弁護士によれば、過払いは「200万人超、2兆円超」に上る。
フリージャーナリストの篠原隆史氏は「(倒産は)過払い金の支払い(借り手への返却)を渋ったからではないか?いずれ武富士は復活するよ、と言われているが?」と質問した。最も核心に触れる部分だ。篠原氏は“計画倒産”との見方を示した。
小畑管財人は「事業体としての価値がなくなったら再生できなくなる。再生できなくなれば過払い金を返すこともできなくなる。そのため、あの時点で更正法の適用を申請した」とする趣旨の回答をした。
記者クラブメディアの質問は「全件通知はどうするのか」「再建スポンサーはどこか」など周辺部分をなぞるだけだった。深く突っ込むことはなかった。三宅氏は「記者クラブの質問は『なあなあ』で、自分で掘り起こしてきたものは一つもない」と吐き捨てた。
『武富士ダンサーズ』で多額の広告費を得た新聞・テレビが、急所を突けるはずがない。まして数年後に武富士は復活するのだから。実際、小畑管財人も「新しい金融会社として再建を目指す」と明言する。
同管財人は「全件通知しても半分は(郵便が)届かない」と明かす。これについては、どの社の記者も突っ込まなかった。サラ金問題の核心であるにもかかわらず。
記者会見終了後、筆者は小畑管財人に聞いた。同管財人によれば、(案の定)借り手のほとんどは住所が変わっている。事業主で半分、個人だと7割は引越しているという。過払いで雪だるま式に借金が膨らみ“夜逃げ”した利用者も当然この中に入る。借金取りから逃げるために野宿者となった人は数えきれない。
「あなたの夢が加速する、円ショップ武富士」と煽った新聞・テレビは再び同じ過ちを繰り返すのだろうか。
過払いの心当りがある方は武富士コールセンターに電話を。
0120-938-685
0120-390-302
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