≪終戦の日、靖国神社≫ 遺族「政治がどうあろうと父の所に来るだけ」

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靖国神社正門(8月15日午前7時、写真=筆者撮影)

 
 64回目となった終戦の日、靖国神社。午前6時に正門が開くと待ちかねた遺族らが拝殿に進んだ。蝉時雨や境内に立ちこめる線香の匂いはいつもの年と変わらない。
 今年は麻生首相が早々と「参拝しない」と表明した。衆院選挙戦たけなわとあって「靖国神社問題」を声高に叫ぶ政治家もいない。政治的には静かな8月15日となった。
 けたたましかったのは3年前だった。警備と報道のヘリコプターが神社上空を低く旋回し、蝉時雨をかき消した。小泉首相の参拝である。中曽根首相以来、現職総理として21年ぶりに終戦の日に靖国神社に参拝したのだった。近隣諸国、とりわけ中国は猛反発し日中関係は冷え込んだ。
 昨年は中国人監督による映画「靖国 YASUKUNI」である。「反日感情を煽るもの」として衆院議員が事前検閲を求め、右翼による上映妨害や上映自粛が相次いだ。
 製作側の姿勢にも問題があった。終戦の日の靖国神社を撮影した映像は、香港のTV局が「ニュース素材として使用」と取材申請したものであった。にもかかわらず映画制作会社に映像を提供したのである。昨年の騒動を受けて取材規制はこれまでになく厳しいものとなった。
 筆者はほぼ毎年、8月15日に靖国神社を訪れている。2003年頃までは、戦地に赴いていた元兵士たちの姿が見られた。人間魚雷「回天」で仲間を送り出した潜水艦の乗組員は、「自分の目の前で散っていった戦友の御霊を鎮めるために毎年来ている」と話した。彼らの鬼気迫る形相が目に焼きついて離れない。
 ところがここ3~4年前から、祖国のために青年期を犠牲にした旧日本軍兵士を見かけなくなった。高齢で体の自由が利かなくなったり、あるいは戦友が待つ彼岸に旅立ったのであろう。
 代わりに台頭してきたのが「バーチャル兵士」だ。特攻服やカーキ色の軍服姿に身を固め靖国神社の境内を闊歩する。彼らは軍国少年崩れだったり、コスプレだったりする。
 参拝に訪れていた二人組の女性(60代後半)に聞いた。1人は中国湖北省でもう1人は南方戦線で父親が戦死した。「私たちは、毎年父の所に来ているだけ」「政治がどうあろうとあの人たち(右翼)がどうあろうと関係ない」。2人はさばさばとした表情で語る。
 軍国少年崩れや右翼の祭典の場となり政治にほん弄されても、靖国神社は遺族にとっては父や兄の英霊が永眠する特別の場所なのである。

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