スリランカ 女性ゲリラ兵士に聞く(後編)

 事実上内戦に再突入したスリランカでは、政府軍と反政府武装勢力「LTTE:タミル・イーラム解放の虎、通称タミル・タイガー」との攻防が、日増しに激しさを増している。

現地からの報道によると、戦略要衝を落とすなどした政府軍が、戦闘を優位に進めているもようだ。先週(9月1日掲載)、前編で紹介したマディーさんら女性ゲリラ兵士たちも、銃を持って前線に立ち政府軍と銃火を交えていることだろう。安否が気になる。
 

* * *

 大統領など政府要人の殺害を狙う自爆テロは、タミル・タイガーの常套戦術である。パレスチナのハマスよりその歴史は古い。政府側にとって大きな脅威だ。91年にインドのラジブ・ガンジー首相を自爆テロで暗殺したのは、タミル・タイガーの若い女性兵士だった。

 だが、もともとタミル人社会は女性差別の強いヒンズー教徒が主だったはずである。ウーマン・パワーを総動員しなければやっていけないほどゲリラ側が追い詰められているのか。あるいは男女平等主義が女性兵士を惹きつけるのか。マディーさん(25歳)の話を続ける。

 「自爆テロ攻撃に赴くチャンスを与えられたら大変ハッピー」と語るマディーさん(バイクの女性。撮影:筆者)

「自爆テロ攻撃に赴くチャンスを与えられたら大変ハッピー」と語るマディーさん(バイクの女性。撮影:筆者)

――自爆テロをどう思いますか?

「もし敵の船が武器・弾薬をジャフナに運び込んできたとする。それらの武器・弾薬は我々タミル人を殺戮するものだから、自爆テロを掛けてただちに粉砕する」

――リーズナブルなわけですね
「もちろん」

敵艦船に自爆
テロ攻撃を掛けるのも、タミル・タイガーの得意戦術のひとつである。自爆テロを行うのは「ブラック・タイガー」という専門の部隊だ。

――あなたは「ブラック・タイガー」に入る意志はありますか?

「最高指導者が『必要』と言えば、すべての同志が『ブラック・タイガー』に入る。タミル人の地を解放するという夢をすべての同志が持っているから」

―自爆テロを命じられたら赴きますか?

「はい。もしチャンスを与えられれば大変ハッピー。喜んで行く。
 敵の資産を破壊できるのだから。躊躇なく(自爆テロ攻撃)に行く」

――残された家族が悲しむとは思いませんか?
「悲しむだろうが、一方で家族にとっては大変名誉なことでもある。息子や娘がタミルの地を解放するために犠牲になったのだから」

――スリランカのタミル人差別をどう思いますか?

「我々タミル人は毎年、多くの場所で土地を追われている。我々の地には十分な施設がない。経済封鎖も行われていて、薬もろくにない。シンハラ政府に『スリランカ北部と北東部を我々タミル人に下さい』と頼んでいる。これが我々の基本的な要求だ」

「ジャフナの悲惨な状況を見ればわかるように、我々の妹は(チェックポイントの存在で)自由に学校に行けない。非常にたくさんのチェックポイントがある。セクハラがある。行方不明になった子も多い。我々タミルの地で、だ。私たちはコロンボや南部地方に行くつもりはない。我々はシンハラ政府に『私たちの土地をくれ』と頼んでいるだけだ」

「我々は自由に生きるべきだ。それがシンハラ政府と22年間戦っている理由だ。我々の祖先は武器を持って戦わなかったから、何の解決も生み出さなかった。」

――独立したいですか?
 「はい。(今、政府が提案している)連邦制の下では我々タミル人は自由に生きることができない。国土がないから悲しい事件が起きる」
死をも恐れぬ決意を語るマディーさんだが、気負いのようなものは感じられなかった。日本でいえばボランティア活動に携わる若い女性が、自然体でインタビューに答えているかのようだった。
 最後に、筆者はマディーさんにこんな質問をした。

――内戦が終わって平和が訪れたら、どんな職業に就きたいですか?
「戦争未亡人、戦争孤児が数多くいる。こうした人たちを助ける仕事がしたい」
 カメラを向けると、そこには日本のどこにでもいるような普通のお嬢さんがハニカミながら立っていた。

 

* * *

 
 タミル・タイガーの完全支配地域であるキリノッチ県内では、行く先々で女性ゲリラと会った。取材車のタミル人運転手が話しかけると、彼女らは照れることも衒(てら)うこともなく、よくしゃべり、よく笑った。皆くったくなく明るい。

 爆弾の破片で右アゴを吹き飛ばされた女性ゲリラ。あまりにもの明るさに気圧されて、名前さえ聞くことができなかった(撮影:筆者)

爆弾の破片で右アゴを吹き飛ばされた女性ゲリラ。あまりにもの明るさに気圧されて、名前さえ聞くことができなかった(撮影:筆者)

 インタビュー取材を終えて帰る途中、幹線道路沿いでまた別の女性ゲリラに出会った。彼女は顔の右下半分がなかった。聞けば、砲弾の破片で吹き飛ばされたとのことだ。20歳をちょっと過ぎた位だろうか。カメラを向けると笑顔でポーズをとってくれた。先ず相手の年齢と名前を聴くのが記者の勤めなのだが、彼女の底抜けの明るさに気圧されて、何も聴くことができなかった。
 

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