「公務執行中の公務員に肖像権はない」。そんなことは百も承知だ。でも撮れない。
環境団体との交渉で自らの姿を映させない官僚の実態を先月、『田中龍作ジャーナル』で報じたところ、Twitterなどで大きな反響を頂いた。
有力企業を相手に過酷な裁判を経験した知人のジャーナリストは「訴訟に持ち込まれても勝つ」とまでアドバイスしてくれた。
それでも撮れない。なぜか?
NGOなどが対政府交渉を申し入れる際、政府側が「撮影禁止」「メディアは入れないこと」などといった条件を付けることがよくある。
政府を追及したいNGO側は、突き付けられた条件をのむ。理由はこれに尽きる。国会議員の仲介で交渉を申し入れているにもかかわらず、だ。
生活保護行政の不備を質す弁護士や支援者が厚労省と交渉を持った時のことだ。メディアは一切シャットアウトだったので、筆者は組織の一員になりすまして交渉の場に入った。
生活保護の実態に詳しい60歳過ぎの弁護士が、理路整然と現状や問題点を説明すると、30歳そこそこのキャリア官僚は鼻で「フン」と笑った。本当に「フン」と言ったのである。
「政策を決めて実施しているのは俺たちだからな」。若き官僚の顔にはそう書いてあった。政府のエリート役人と民間人の力の差は歴然だ。
対政府交渉の現状をよく知る環境団体FoE Japanの満田夏花理事は次のように話す―
「政策は公共のもの。録音もダメというのは、本末転倒も甚だしい。原発問題であれば、福島の人にも、鹿児島の人にも政府が何と言っているか聞かせたい。政府には説明責任がある」
満田理事はこう述べたうえで「あってはならない行政の傲慢、官僚は国会議員や国民を見下している」と厳しく指摘した。
対政府交渉によって実態が明るみに出る。「えっ、政府ってこんなにいい加減なの?」「民間企業だったら背任じゃないか?」…と。
「撮影禁止」「録音禁止」の条件をのんでも、先ずは官僚をテーブルに引っ張り出さなくてはならない。
庶民の生活のために真実を追求するNGOや弁護士たちの葛藤は当分続きそうだ。
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