地元福島ばかりでなく日本中の人々を震えあがらせた原発事故の記録を闇に葬らせてはならない。政府事故調の聞き取り調査は東電や政府関係者など772人、1,479時間に及ぶ。だが政府は一切内容を明らかにしてこなかった。誰からヒアリングを行ったかさえも。
原発事故の被害者や運転差し止め訴訟などに携わる9人(※)がきょう、政府事故調の聞き取り調査記録の開示を請求した。
開示の最大の焦点は、いわゆる「吉田調書」だ。12日午後、1号機が水素爆発し、14日午前、注水に失敗した3号機も爆発する。15日、2号機は格納容器の圧力を抑えきれなくなり、最高濃度の放射能を環境中にまき散らす……
東日本全域が壊滅する可能性もあった危機的な状況を乗り切った、東電・福島第一原発の吉田昌郎所長から、政府事故調は28時間に渡って聴取した。東電本店や官邸との やりとり がつぶさに記録されている。
公開されれば、政府関係者や東電幹部にとっては都合の悪い事実がゾロゾロ出てくることが予想される。政府は「吉田調書」を公開しない方針だ。
きょう午後、東電株主代表訴訟の木村結代表や福島原発告訴団の武藤類子団長らが内閣府を訪れ、「行政文書開示請求書」を提出した。
「開示」「不開示」の決定は30日以内に出される。「吉田調書」が不開示となった場合、請求者たちはただちに訴訟に踏み切る方針だ。
マスコミ報道によれば5日の記者会見で菅義偉官房長官は772人の調書について「本人の同意が得られたものについては、必要な範囲で開示したい」と述べた。
請求者代理人の海渡雄一弁護士は「これらが全部公開されるまで闘う」と一歩も譲らぬ姿勢を示す。
内閣府での開示請求手続きを済ませると、請求者たちは司法記者クラブで会見した。
「事故の原因、対策、責任を明らかにするのには、どうしても必要な書面。日本国民、全世界の人々の共有財産というべき情報である。非公開とはとんでもない。30年後に国会図書館で公開するというが30年後では遅すぎる」。(海渡雄一弁護士)
「福島原発事故の原因さえ検証されないまま再稼動(しようとしている)。普通の常識なら信じられない。通常なら刑事責任が問われる事件の調書として事実が明らかにされるべきなのに、わざわざ市民が開示請求せざるを得ないのは、日本社会がかなりゆがんでいる」。(東海第二原発訴訟原告団・大石光伸事務局長)
「吉田調書を新聞で読んで、恐怖で逃げ惑った時のことを思い出した。一生懸命がんばったけれど、どうにもならなかった。あの時の彼らの恐怖、私たちが思ったのと同じようにサイトの中で吉田さん達も思ったことがリアルに響いてきた」(福島原発告訴団・地脇美和事務局長)
「そんな危険なものを何故ひとつの発電手段として使わなければならないのか。その必然性がわからない。人間の手が及ばない、暴走し始めたらどうしようもない核。制御できないと分かっているものを再稼動。まだそんなことをこの人たちは言っているのかと怒りでいっぱいになる」(同上)
「すべての人があの時の苦しさ、緊迫感、できなかったことを知るべきだと思う。でないとまた同じことが引き起こされるのではないかと恐怖感を感じている。国民の前に見える形で開示させることができればいいと思う」。(同上)
原子力規制委員会の田中俊一委員長も「吉田調書」を読んでいないという。官邸が同調書を固く封印しているためだ。福島の教訓が活かされないまま「世界一厳しい規制基準」が一人歩きする。
このまま情報が開示されなければ、安全神話がまたぞろ復活するだろう。
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(※)請求者
武藤類子(福島原発告訴団団長)
佐藤和良( 同 副団長)
石丸小四郎( 同 副団長)
地脇美和( 同 事務局長)
木村結 (東電株主訴訟事務局長)
大石光伸(東海第二原発訴訟原告団事務局長)
相沢一正(東海第二原発訴訟原告団共同代表)
小野有五(泊原発の廃炉をめざす会共同代表)
朴鐘碩(原発メーカー訴訟事務局)