安倍政権が「集団的自衛権の行使容認」を閣議決定する前夜の6月30日、官邸前は大勢の市民で埋め尽くされた。「憲法壊すな」「安倍は辞めろ」のシュプレヒコールが永田町の夜空に響く。
抗議は殺気さえ帯びていた。デモ隊の前進圧力で警察のピケとバリケードは幾度も決壊しそうになった。
人々のうねりを俯瞰で撮影したい。そう思ったフリーランス記者約10人は、国会記者会館屋上に駆け登った。
“ 下界 ”のようすが手に取るように分かった。人々が巨象に闘いを挑むアリの大群のように見えた。記録にとどめておく必要がある。我々は夢中でカメラのシャッターをきった。
ものの5分と経たぬうちに国会記者会館の職員が飛んできた。「ここはダメです。出て行って下さい」。職員は居丈高に言った。
「国民の税金で作られたこの建物を納税者が利用できないのはなぜか?」
理由を聞くと職員は「我々に管理権があるから」と答えた。
「降りろ」「いや、降りない」の押し問答が続く。すると、「官邸に連絡します」…職員は訳の分からないことを口走った。ふつうの国民には理解しがたいのだが、彼らにとっては本音なのだ。マスコミと権力が一体化している実態でもある。
<人々が国会記者会館前庭を事実上占拠した>
国有財産であるのに特定の任意団体だけが無料で使い、任意団体以外の者には使わせない。それが記者クラブ様専用の国会記者会館だ。大通りをはさんで首相官邸と国会議事堂に隣り合う。
この国の最高権力に向かって物言える場所であることから、原発再稼働、TPP、特定秘密保護法などに反対する市民たちが集う。国論を二分するような問題が起きると「官邸前」が騒然とする。
権力と庶民が対峙する場。それを多くの人に見てもらいたいと思うのがフリーランス記者で、見せたくないのが記者クラブを含めた権力だ。
権力中枢を一望できる国会記者会館をめぐっては裁判になっている。原告のフリーランスが撮影のための屋上使用を求め、被告の国会記者会は管理権をタテに「使わせない」としている。
翌7月1日夕、国民の反対にもかかわらず安倍政権は「集団的自衛権の行使容認」を閣議決定した。だがそれから1時間もしないうちに驚くことが起きた。
市民たちが国会記者会館の前庭に溢れかえったのだ。事実上の占拠である。占拠したのは閣議決定に抗議するために官邸前の歩道に集まっていた参加者だった。その数100人あまり。
権力の一端を担う国会記者会館の前庭に「安倍政権打倒」「ファシストやめろ」のプラカードが林立するさまは、革命をかすかに連想させた。
前日、フリー記者約10人に退去を迫った記者会館の職員も、なす術がなかった。