「国民生活を守るためにも何としても阻止しなければなりません……」。ビジネスマンや買い物の主婦で賑わう有楽町駅頭に政治家の演説が響く。去る12日(月曜)に行われたTPPに反対する民主党議員の街頭宣伝だ。
100人近い聴衆がいるが、揃いのハッピに揃いのハチマキ。ほとんどが動員だ。主力は「日本養豚協会」など農業生産者団体だった。
場所柄サラリーマンや主婦が行き交うが、足を止めて演説に耳を傾ける人は皆無といってよい。TPPに加盟すれば、日本がアメリカに本拠を置く多国籍企業に食いつぶされる恐れさえある。しかし国民の関心は薄いようだ。
同じ平日、同じ有楽町駅頭でも政権交代前の熱気は大変なものだった。道行く人が次から次へと足を止め、駅頭は聴衆で膨れ上がった。それが今、嘘のようである。
新聞・テレビが「農業の問題」にすりかえてしまったことも影響している。低所得層が年々増大するなか、混合診療が本格解禁されれば、国民皆保険制度は法改正しなくても崩れる。もろ手をあげてTPPを歓迎する経団連傘下企業の広告ほしさもあり、マスコミはこうした問題を一切報道しない。
団体が目立つ聴衆のなかに神奈川県在住の主婦(60代)がいた。『テレビや新聞にだまされない!自分で確かめて』と書いたプラカードを持ち、最前列にいる。「普通の国民として日本を思う気持ちで参加した。新聞・テレビは政財界に操作されている」と憤りを込めて語った。
連れの女性(主婦・40代)はさらに辛辣だ。「ネットを使わない層は(TPPの問題点を)知らない方が多い。新聞・テレビが言ってるから大丈夫だと思ったらとんでもない。ネットで調べてみると違うことがわかる」。
街頭演説に人々が足を止めないのは、マニフェストを反故にして有権者を裏切った民主党だからか。いや、自民党の演説でも国民の関心は低い。国会に議席を持つ政党で今、人々をひきつける政党があるだろうか。政治不信はことほどさように強いのである。
国民の信頼をすでに失ってしまった民主党議員の後に続いて、タレントの藤波心さんがマイクを握った。原発をめぐるしっかりした洞察は、とても15歳に思えないと評判だ。
「日本はチェルノブイリになってしまいました。こんな傷ついた日本がTPP
の交渉に勝てるのでしょうか。交渉内容を明らかにしない日本政府のやり方にも私は不信感を抱いています」。
無責任な政治家よりも少女の言葉の方がまっすぐに筆者の心に刺さった。選挙に勝ちたい一心で嘘をつき、それを恥じようともしない多くの民主党議員たちは、TPPで淘汰されたりはしないのだろうか。
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