「ファクト(事実)ではないことが出回っている。ネットの世界じゃないんです。私たちのリアルな生活がかかっている知事選挙なんです」。本命に目されながらも斎藤候補の急追を受ける稲村和美候補の訴えは切実だった。
14日には稲村候補を支援する県内の市長会の有志22人が記者会見を開き、小野市の蓬萊務市長は「今回の選挙ではデマが飛び交っており、県民の誤解を招くことがあってはならない」と述べ、投票行動に大きな影響を与えそうなネット世論にクギを刺した。
斎藤候補の街宣現場でボランティアスタッフと話す機会があった。
スタッフ:「調べれば調べるほど疑惑が嘘であることが分かったんです」
田中:「でも職員が証言してますよね」
スタッフ:「斎藤知事は職員に心よく思われていませんでしたから。改革派の姿勢が反発を受けていたんだと思います」。
スタッフは「はめられた」という言葉こそ使わなかったが、パワハラなどの疑惑は捏造されたと言いたげだった。
「疑惑は捏造されたもの」が斎藤支持派の一致した見解だ。
斎藤氏本人も街宣で「机を叩いた」「付箋を投げた」「20m歩かされ注意した」ことは認めているが「パワハラではない」と言い切る。
斎藤支持者にとっては、勇気を奮って事実を証言した職員の言葉よりも、頭の中で構成した論理の方が“真実”なのである。
陰謀論がスッと一人ひとりの腑に落ちて、ネットで拡散され、インフルエンサーがお墨付きを与えるようにしてさらに拡散する。あっと言う間に “真実” になってしまう。
ウクライナ戦争がそうだった。世界各国のジャーナリストが現場で見てきた事実よりも、反米親露の視点から夢想した事柄がいつのまにか “真実” となり、一人歩きしてしまった。
日本人はインテリも含めて陰謀論を容易に信じる民族である。
斎藤候補の街宣会場となった姫路駅北口はゆうに一千人を超える聴衆で埋め尽くされた。駅前広場のみならず駅ビルの2階デッキも鈴なりの人となった。
ほぼ全員が「疑惑は捏造された」で一致する。デマであるか否かはともかく、ネットは大量の人々を一つの方向に誘導できる。ファシズムのツールに使うことも可能ではなかろうか…今回の選挙戦を取材していて首筋に冷たいものを覚えるのであった。
~終わり~
◇
レバノン取材の大借金を抱えたまま、無謀にも兵庫県知事選挙に来ました。
御支援何とぞ御願い申し上げます。