10日午後4時30分、永田町民主党本部は記者、スチール、ムービーのカメラマンでひしめき合っていた。間もなくヤワラちゃんこと谷亮子選手(トヨタ)の参院選立候補表明の記者会見が開かれるからだった。
オリンピックで2度も金メダルを獲得するなど世界女子柔道のトップランナーを務めてきた谷選手の政界転出は話題性抜群だ。報道陣の熱気とライトで室温が急上昇するため、広報部職員は冷房のレベルを上げた。大変な気の使いようだ。
同日の午後、愛知県のトヨタ本社には、ラフード米運輸長官が視察に訪れていた。米国での大量リコール問題に対応するためトヨタが同長官に訪問を要請したのだった。
豊田章男社長と共同記者会見したラフード長官のコメントは、トヨタにとって厳しいものだった―「トヨタから提出を受けた15万ページの資料を精査中」であることを明らかにし「(新たな)制裁金が必要なら誰も分かる。安全が最優先課題なので我々は最大限の努力をする」と述べた。追加制裁金を課す可能性もあることを示唆したのである。トヨタはすでに米運輸省から15億円もの制裁金を課せられている。
米国世論に一喜一憂するトヨタだが、日本国内のマスコミ対策は完璧だ。トヨタの広告費は年間880億円にも上る。新聞、テレビ、週刊誌などの有名媒体はじめ、印刷部数がわずか2~3千部の専門誌にまで広告を出している。
ある有名週刊誌が「働き易い日本企業ベスト10」を企画したところ、トヨタのランクが低かった。ゲラまで出来あがっていたのだが、編集長判断で差し替えた。マスコミがトヨタの機嫌を損ねないようにと苦心するケースは枚挙に暇がない。
トヨタに詳しいジャーナリストによると、トヨタがマスコミに直接圧力をかけてくることはない。広告代理店があれこれと口を出してくる、という。
新聞、テレビ、雑誌、いずれの媒体も不況で苦しい。トヨタが広告を引き揚げれば大幅収入減となり、経営は一段と苦しくなるだろう。
外交問題にまで発展しかねない大量リコール問題で、米運輸長官がトヨタを訪れて追加制裁も示唆したその日、夕方のテレビニュースのトップは各局とも「谷選手出馬」だった。「ラフード長官の発言」はその後で扱いは小さかった。
記者団からの質問は「田村でも金、谷でも金、ママでも金の次は国会議員でも金なのか?」とか「現役は続行するのか?」などといった他愛のないものばかりだった。
リコール問題についてコメントを求められたジャーナリストもスタジオのアンカーマンもトヨタへの批判めいた言辞は全くと言ってよいほど口にしなかった。
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