
開戦間もない頃、本格陸上侵攻を待つイスラエル軍機甲部隊。=2023年10月、ガザ最北端エレツ 撮影:田中龍作=
トランプ大統領が提示した和平案に対してハマスは3日、仲介国を通して「人質全員を解放する」と回答した。イスラエル側もパレスチナ人受刑者を釈放する。
「人質全員解放」はそれ自体喜ばしいことだが、これは和平のほんの入り口に過ぎない。何より20項目からなる和平案はイスラエル優位にできている。
雲行きは初っ端から怪しい。
トランプ大統領がイスラエルのネタニヤフ首相に「ガザ市への爆撃を止める」よう促したが、当のイスラエル軍が「ガザ市への攻撃は続けている」とアナウンスしているのだ(日本時間4日夜現在)。「爆発音を聞いた」と証言する住民もいる。
イスラエルは停戦なんてお構いなしである。実際、2009~2010年戦争では停戦合意後もイスラエル軍は飛行船(まだドローンはなかった)からミサイルを投下していた。

ガザに侵攻するイスラエル軍部隊。=2023年10月、ガザ境界 撮影:田中龍作=
「イスラエル軍の撤退」も怪しい。イスラエルの都合のいいようになっているのだ。期限が示されていない暫時撤退となっており、全面撤退したとしてもガザ境界には駐留できる。イスラエルの領土だからだ。
ハマスの武装解除が和平の条件になっているが、ハマスが武装解除する訳がない。武装解除すれば自らの存在意義を失う。こんなことがあった―
2008~2009年戦争取材でガザに滞在していた時のことだ。田中のコーディネーターを務めてくれていた男性の携帯電話(当時スマホは普及していなかった)が鳴った。
携帯に出た男性の顔が一瞬にして真っ青になった。田中が「どうしたんだ?」と聞くと「ハマスから呼び出された」と言った。
コーディネーター共々ハマスのアジトに呼び出され顔写真とパスポートの写しを撮られただけで済んだが、コーディネーターの真っ青な顔は今だに忘れることができない。
暴力と恐怖でガザ住民を支配してきたハマスが武装解除するなどということはありえないのだ。

人質奪還集会。家族はネタタニヤフ首相への苛立ちと不信を強めていた。=3月、テルアビブ 撮影:田中龍作=
ネタニヤフ首相は自らの逮捕逃れのために戦争を継続したくて仕方がない。2023年10月7日のハマスの奇襲を事前に知っていた、と地元紙ハアレツにすっぱ抜かれている。
恒久停戦したくないハマスとイスラエルが主役で戦争が終わるはずはない。
万が一、ガザに恒久平和が訪れるようになったら、ネタニヤフは西岸での軍事行動を本格化させるだろう。
~終わり~
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