開戦から20日目、3月15日。
ロシア軍とウクライナ軍の激しい戦闘が続くイルピンに向けて取材車を走らせた。
キエフの街中を外れると、イルピンの方角から黒煙が上がっているのが見える。前回まではこんなことはなかった。
イルピンは入り口で封鎖されていた。一昨日、取材中の米国人カメラマンが銃撃され死亡したことを受けての措置だ。
入れるのは救急車と軍と警察ぐらいである。田中は徒歩で入ろうとしたが、警察官が人さし指を横に振り「ノー」と言って制止した。
「トン・トン・トン・トーン」…乱れ撃ちのような連続音が響く。ウクライナ軍あるいはロシア軍のいずれかが機関砲を放っているのだろう。
2日前に来た時よりもまた一段と音が大きく、近くなっていた。両軍が対峙する最前線がキエフ市側に移動していることは確かだ。
救急車はイルピンとキエフの間をピストン輸送した。救出された負傷者はイルピン入り口で別の救急車に移された。
イルピンに入る救急車とキエフ市内の病院に向かう救急車は別物になっていた。イルピンに入る救急車は撃たないように、とロシア軍に通知しているのだろうか。
《 クリチコ市長「ギブアップはない」 》
15日朝、キエフ市郊外のアパートが砲撃された。4人が死亡、27人が救出された。14日に続いて連日である。
現場はイルピンから南東に約10キロ行ったなだらかな斜面に広がる閑静な住宅地だ。
消防による消火・救出活動が続くなか、キエフ市のクリチコ市長が視察に訪れた。
市長は「ここ(砲撃されたアパート)は軍の施設か?ロシアは政府にプレッシャーをかけ、市民にプレッシャーをかけ、パニックに陥れようとしている」と憤った。
田中が「ギブアップはしないのですね」と質問すると、市長は田中をニラミつけた。数秒あって―
「我々は子供を守り土地を守る。ギブアップなんて考えは毛頭ない」と答えた。
市長は身長約2mの巨躯。ボクシングヘビー級の世界チャンピオンである。重いパンチを打ち込むような迫力ある回答だった。
《 爆撃でシェルターが閉鎖された地下鉄駅 》
けさは地下鉄駅周辺にも爆撃が及んだ。キエフ市中心部のルキヤニスカ駅だ。
地上にあるのは地下鉄駅のほんの一部だが、破壊の具合は営業不可能な状態だ。駅は閉鎖された。
シェルターとしてのルキヤニスカ駅が使えなくなったのである。地元住民は避難場所を失ったのである。空襲警報が鳴ったら逃げ惑うだけだ。
事態を受けて15日午後8時から17日午前7時まで外出禁止令がキエフ市全域に敷かれる。
~終わり~
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カードをこすりまくっての現地取材です。
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