誰もが逮捕され有罪となる社会がやって来る

こともあろうに法務省の役人が「取り調べの全面可視化を求める議連の会議」を盗み聴きしていた。法務検察をあげて全面可視化を潰したかったことがわかる。=2010年12月9日、衆院第2会館・地下1階第7会議室前 撮影:筆者=

こともあろうに法務省の役人が「取り調べの全面可視化を求める議連の会議」を盗み聴きしていた。法務検察をあげて全面可視化を潰したかったことがわかる。=2010年12月9日、衆院第2会館・地下1階第7会議室前 撮影:筆者=

 誰もがいつでも逮捕され有罪となる ― 暗黒の警察国家が幕を開けようとしている。

 政府与党は今国会で盗聴法と刑事訴訟法の改正(改悪)を目指す。昨年の通常国会で衆議院を通過しており、参院でも趣旨説明を済ませている。今国会の法務委員会で審議入りすれば、数の力で強行採決されてしまう可能性が高い。

 警察と検察にとって最強のカードとなる「取り調べの一部可視化」は、まだ法律ができていないのに実施されてしまった。

 栃木県で起きた女児殺人事件の裁判がそうだ。検察側は被告が取り調べで自白する(させられる)様子の一部を録画録音し公判に提出した。宇都宮地裁はこれを証拠採用してしまった。

 警察と検察は自分たちの都合のいい部分だけ提出するのは火を見るより明らかではないか。

 民主党政権時、頻繁に開かれた院内集会で弁護士や有識者は「全裁判の全可視化でなければ意味がない。一部可視化だと捜査当局に利用され、冤罪の温床となる」と強調していた。

 31日、参院会館で盗聴法・刑訴法改悪の廃案を求める集会が開かれた。

 布川事件(※)で無実の罪により29年間も獄舎に閉じ込められた桜井昌司さんが出席した。

 桜井さんは「(一部可視化により)冤罪にされるという確信がある。『この通りにしゃべりなさい』と(警察、検察に)言われてウソの自白をさせられた。今これと同じような捜査(取り調べ)が行われている…」と指摘した。

冤罪被害者の桜井昌司さん。「痛みを知っている人間として(刑訴法改悪に)抵抗してゆきたい」と語った。=31日、参院会館 撮影:筆者=

冤罪被害者の桜井昌司さん。「痛みを知っている人間として(刑訴法改悪に)抵抗してゆきたい」と語った。=31日、参院会館 撮影:筆者=

 取り調べの一部可視化と同様に怖いのが盗聴(通信傍受)法の改悪だ。これまでは捜査員がNTTに出向き、第三者の立ち合いのもとで盗聴が行われてきた。改正後は捜査機関(主に警察本部)で盗聴が可能となる。

 盗聴の対象も広がった。現行法では薬物や銃器取引などに限られているが、改正後は窃盗、詐欺なども盗聴の対象となる。窃盗、詐欺は犯罪の圧倒的多数を占めるだけに、盗聴の件数は一気に増えることになる。

 盗聴はこれまでも捜査の常套手段だったが、おおっぴら にはできなかった。ところが合法化されれば、おおっぴら どころか裁判に証拠として提出できるようになる。検察側が断然有利になるのだ。

 共同通信記者として警察・司法の取材歴が長かった青木理氏は次のように警鐘を鳴らす ―

 「ほぼ誰でも捜査の対象になる・・・(捜査当局は)フルスペックの盗聴法がほしかった」

 「安倍首相をはじめとする政治家が無能であることを利用して官僚はやりたい放題」とよく耳にする。官僚トップの内閣官房副長官は警察庁出身の杉田和博氏だ。

 私たちの生活の隅々まで警察が支配する社会がすぐ目の前に来ている。

 

声と映像を同時に記録するビデオカメラは「冤罪製造機」となる。

声と映像を同時に記録するビデオカメラは「冤罪製造機」となる。

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 参考記事

「可視化潰し」~法務省役人が“盗聴”~

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※布川事件
1967年、茨城県利根町布川で起きた強盗殺人事件。物証に乏しいこの事件では、別件逮捕された桜井昌司さん(当時20歳)が自白と目撃証言により無期懲役の判決を受けていた。

~終わり~

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