1980年代初頭、参院選挙の全国区に『ドント式』による比例制度が導入されることが決まった時、世間の多くは首を傾げた。50代未満の方は、当時の政治的、社会的動揺を御存知ないだろう。
ドント式とは各政党の得票を先ず1で割り、次に2で割り、3で割り、4、5、6、7…で割っていき商の多い順に当選議席を割り振って行く方法だ。大政党に有利になる仕掛けである。
当然小政党は異議を唱えた。政治権力に最も近いNHKでさえニュース解説で「ドント式は大政党ほど有利となり小政党には不利となる…」として問題が残る制度であることを説いていた。「ええっ!? NHKがお上の決めたことに異論を唱えていいの?」筆者は驚いた。
銭湯の女将さん、一膳飯屋のオヤジ…極端に言えば町の行く先々で「なぜ大政党ほど有利になるのか?」と聞かれた。
筆者は上述したドント式のシステムを図示しながら説明した。彼らの怪訝そうな顔が今でもまぶたに残っている。「なんでこんなことするんやろ?」顔にそう書いてあった。50代以上の記者であれば身をもって体験しているはずだ。
今回の参院選挙を見てみよう。比例区で18人が当選した自民党は、総得票数を当選者の数で割ると1,025,578票。5人当選の共産党は1,030,811票。1人しか当選しなかった社民党は1,255,235票。
自民党の場合102万票で1人を当選させることができるが、社民党は125万票を必要とする。大政党ほど有利となる証左だ。
ドント式による比例選挙が「比例していない比例選挙」と言われるゆえんでもある。
総務省選挙課にドント式を導入した経緯を聞くと「政党政治を推進するのが目的だった」という答えが返ってきた。
当時、社会党(社民党の前身)が衆院に100議席以上を有しており、「自・社対決」などと持てはやされた頃でもあった。「自・公」なんて概念さえなかった政治状況だった。
当時2大政党だった「自民党と社会党が、自分たちに有利になるような選挙制度を持ち込んだ」-『ドント式』導入をめぐって憶測が飛んだ。20代でまだ駆け出しの筆者は、真相を確かめることができないままだった。
魅力ある候補者でも弱小政党から出ると勝ち目がない。逆に言えば、社会の批判を浴びている候補者でも大政党から出れば当選する。今回の参院選で自民党の総得票数の75%以上が政党名で投票しているのだ。緑の党は53%弱だ。
有権者にとっては制度以前の問題として釈然としない。