これほど分かりやすい対決の図式もない。原発推進の「自・公・民(労働組合の「連合」)・維新」と脱原発の「未来・社民・共産」が東京都知事選挙でぶつかるのだ。同じ日(12月16日)に投票が行われる衆院選挙と同じ対立構図である。
都知事選挙は他の地方選挙と同様、国政レベルとは別のテーマで争われてきた。国政選挙と同じテーマで真っ向から対立するのは、これが初めてといってよい。
都知事選がきょう告示され、候補者たちが第一声をあげた。原発推進陣営の猪瀬直樹(副知事)候補は、新宿西口に姿を現した。付き添ったのは以下のお歴々だ――
日本維新の石原慎太郎代表、橋下徹代表代行、自民党の石原伸晃・東京都連会長と公明党の高木陽介・東京都本部代表、連合東京の大野博会長。
原発を建設しまくった自民党、再稼働させた連合(電力総連が主導権を持つ)、「原発はゼロにしない」と言い放った石原代表率いる維新が揃い踏みしたのである。カメラのファインダーを覗くと、いずれもが放射能マークの代紋を背負っているように見えた。
猪瀬氏の演説は実に細々としていて、庶民の興味を引く内容ではなかった。「帰宅困難者条例を作った」「縦割り行政の予算では地方自治はできない」「都庁職員の退職金は13%削った」…これらを微に入り細をうがって説明するのだ。東電改革については一言も触れなかった。
耳を傾けていた有権者(年金生活者・男性=杉並区)に聞いた。「発送電分離について具体的に聞きたかった。原発ゼロへの方向性を具体的に示してほしい。一番聞きたかった話が出なかった」。男性は残念そうに語った。最後に「それでも猪瀬さんに入れる」とポツリ。
「東京なのに宇都宮、弁護士なのにけんじ(検事)」、キャッチフレーズと共に緑とオレンジ色の街宣車に乗って宇都宮候補が現れると、会場の有楽町マリオン前に集まった聴衆から拍手が沸いた。
消費税に反対する人、貧困層、障がい者、元教員、保育士、子供の将来を心配する母親など約1000人ほどが集まった(主催者発表)。
応援弁士は前日に宇都宮候補支持を決めた「未来」の東祥三氏(元「生活」幹事長)、社民党の福島みずほ党首、共産党志位委員長ら。菅直人前首相の姿もあった。「なんちゃって脱原発」の民主党でありながら応援に駆け付けたのは、宇都宮人気のおこぼれにあずかる魂胆からか。菅さんは自らの選挙が危ういのである。
宇都宮氏がトツトツと話し始めた―
「なんとしても東京から脱原発を実現しなければならない。電気の一大消費地である東京は福島原発の被害者を最大限支援する責務がある。福島だけでなく柏崎刈羽の廃炉を提案し、送電線分離する。再生エネルギーは雇用を生み出します」。
「格差、貧困、東京は特に広がっている。47都道府県の中で東京は貧富の格差全国第五位。大阪は一位(聴衆から失笑)。東京のような財源が豊かなところはもっと福祉に力を入れることができる」。
有権者に聞いた。元教員(60代男性・葛飾区)は次のように話す―
「30余年間教師をしていたが、最後の数年は学級崩壊や暴力の現場にいた。教師が力を合わせて対処できにくくなった。石原さんになって顕著にしめつけがあった。意見があっても職員会議では言わないでくださいと上から言われる。子供と真正面から向き合っている教師たちにとって(宇都宮候補は)全面的に支持できるのではないか」。
アルバイトの女性(60代・都内ゲストハウス在住)も宇都宮氏に熱い眼差しを送る―
「サラ金、派遣村などの対応をしてきたと聞いて、すごく誠実、頼りになると思う。私もスレスレ(の所で暮らしている)。貧困問題は他人事じゃない。周囲の女性たちも仕事がない。住まいが一番必要。住むところがないのは家畜以下だ。都営住宅を作らないのはおかしい。本当に困っている人、弱者が生きられる社会にしてくれるのは宇都宮さん以外考えられない」。
弱者は石原都政により切り捨てられ、庶民は自民党が建設しまくり民主党が再稼働させた原発により健康を脅かされる。有権者の怒りは、来月16日の投票日に爆発する。
《文・田中龍作 / 諏訪都》