【ローマ発】 「東電福島」と共に崩れ去ったイタリア原発政策の虚構

「原発ノーサンキュー」の旗を掲げ歓喜の声をあげるローマ市民。(13日午後3時40分、「真実の口」前広場。写真:筆者撮影)

「原発ノーサンキュー」の旗を掲げ歓喜の声をあげるローマ市民。(13日午後3時40分、「真実の口」前広場。写真:筆者撮影)

 13日午後3時40分、「真実の口」前広場。トレーラーに搭載された特大テレビのスピーカーから「投票率は57%」のアナウンスが流れると会場は指笛と歓声が鳴り響いた。海外在住のイタリア人を分母に入れ彼らが全て無投票となっても、国民投票の成立に可能な50%に達するからだ。

 ベルルスコーニ政権による原発推進政策の廃棄を求める国民投票を成立に持ち込んだのは、東電・福島原発の事故であった。

 そもそも「反原発国民投票」は野党がベルルスコーニ政権に揺さぶりを掛ける目的で一年半前に持ち出したものだった。50万人を超える署名が集まったことから最高裁が国民投票を支持したのだが、それは今年1月12日のことだ。福島原発事故より2か月も前である。

 イタリアでは1995年以降7回の国民投票が実施されたが、いずれも投票率が低かったため否決されている。

 何よりベルルスコーニ首相が支配するメディア(新聞・テレビ・雑誌)が「エネルギー源として原子力は必要です」と国民を洗脳してきた。首相もタカをくくっていたのである。

 ところが「3・11」が発生する。欧州全体に反原発のうねりが起き、イタリアでも世論が高まった。日本と同じ地震多発国であるため原発に対するイタリア国民の不安と反発は計り知れないほど大きかった。

 ベルルスコーニ政権は形勢不利と見るや「原発凍結法」を制定する。ほとぼりが冷めたら原発建設を再開しようという魂胆である。

 ところが世論は政権の目論見通りには行かない。原発が持ち込まれる可能性のあるサルデーニャ島で5月に住民投票が行われ、「原発反対」が97%を占める結果となった。

 焦りの色を濃くしたメディア王のベルルスコーニ氏は支配下の新聞・テレビ・雑誌を総動員して「反国民投票キャンパーン」を展開した。テレビ討論で与党国会議員は「投票に行くな」とまで叫び、国営放送のアナウンサーは投票日を間違えて読むなどした。

 だが有権者のほとんどは海外メディアの報道やインターネットを通じて福島の惨禍を十分に知っていた。(日本と事情がよく似ている)

 筆者がインタビューした市民は全員といってよいほど「技術立国で安全と言われていた日本で事故が起きたのだから、原発は恐ろしい」と答えた。

 国民投票直前の6月9日にはローマ法王が「人類に危険を及ぼさないエネルギーの開発をすることが政治の役割だ」と述べ、暗に原発を否定した。国民の9割以上がカトリック教徒のイタリアで、法王が言外とはいえ原発を否定したことの影響は小さくなかった。

 かくいうローマ法王も福島の事故後、原発に対するスタンスを変えたと言われている。法王にとっても福島の事故は衝撃的だったのである。

 チェルノブイリ事故前から「反原発・反核」を訴えてきたアンジェロ・バラッカ博士(物理学)は、原発をめぐるイタリアの事情を次のように指摘した――

 「国全体が地震帯の上にある」「原子力利権の裾野は広いため表立って問題点を批判できなかった(※注)」「御用学者とマスコミが『エネルギー源として原発は必要』と情報操作してきた」……日本と全く同じではないか。

 危険性を軽視し安全神話の上に成り立っていたイタリア原発政策の虚構は、「東電福島第一原発」と共に崩れ去った。


※注
イタリアでは1963~64年から原発が稼働し始めた。チェルノブイリの事故(86年)を受け、翌年の国民投票で廃止が決まった。廃炉を終えたのは97年。

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