「無理やりな捜査のあげく厚労省元局長の無罪が確定した郵便不正事件の検証を進めている最高検は、特捜の取調べの一部可視化を導入する方針」―このニュースの第一報に接した時、筆者は「法務検察に先回りされた、しまった!」と焦った。
裁判官が調書を優先的に採用する現状を考えた場合、冤罪を防止するには取り調べを全面可視化することが最も望ましい。日弁連、人権団体、当事者である冤罪被害者などが取り調べの全面可視化を求めているのはこのためだ。
ところが最高検は『一部』可視化で済まそうというのである。明らかに目眩ましだ。
9日、事態を受けて開かれた民主党の「取り調べの全面可視化を求める議員連盟」(「可視化議連」会長:川内博史・衆院議員)の会合は危機感でピリピリしていた。
というのも「可視化議連」は特捜調べの『全可視化法案』を来年の通常国会に議員立法で提出することにしているからだ。法務省(政府)が先に法案を出してしまったら「万事休す」である。
検察審査会の闇を追及している森ゆうこ議員が口火を切った。「我々が出そうとしている『特捜部案件についての可視化法案』と法務省が出そうとしている『特捜部案件の一部可視化』は全く違う。法務省は『全部割って(※)しまってから、検察に都合のいいことしか言わなくなった所だけを録画・録音して公判で使うこともありうる』法案を出そうとしている」。
森議員は検察のお先棒を担ぐ記者クラブメディアに釘を刺すことも忘れなかった―「マスコミが『法務省が(フロッピーを改ざんした)前田事件を反省して可視化に取り組む』と報道しているのは全くの誤り」。
話が核心に迫り始めたところで「可視化議連」事務局長の辻恵衆院議員が意表を突いた―「法務省の役人が壁に耳をあてているからマイクのスイッチを切ろうか?」。辻事務局長は弁護士出身だけあって法務検察の手の内を知っているのだ。
「可視化議連」の会合が開かれているのは衆院第2議員会館・第7会議室。辻事務局長の指摘からやや間を置いて筆者は内側から扉を開けた。そこにいたのは、扉に耳をあてて盗み聴きしている男性だった。年は30代後半と見られる。
「法務省の方ですか?」と筆者が尋ねると「そうです」とバツが悪そうに答えた。
「何で扉に耳を当ててるんですか?法務省の人が盗聴みたいなことしていいんですか?」
「扉が厚くて話は聞こえてませんよ」
「聞こえないのに何で長いこと耳を当ててるんですか?」
筆者が男性のIDカードを確かめようとすると、男性はスーツの両裾をつまんで隠した。まるで思春期の女の子が恥らうような仕草で。
「(あなたの)写真を撮っていいですね?」
「いや、カンベンしてください」
それでも筆者はカメラのシャッターを押した。男性は顔を隠すようにして去って行った。
記者が壁耳するのはごく普通の光景だ。だが法の番人であるはずの法務省の役人が盗聴まがいのことをしていようとは・・・・・・。「可視化潰し」にヤッキとなる法務検察の姿がそこにあった。
(つづく)
※割る
検事のストーリーに沿った自供に追い込むこと。
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