ネット上に流出した警視庁外事3課の国際テロに関するデータが『本』になった問題で東京地裁は30日、個人の権利侵害にあたるとして出版と販売を差し止める仮処分命令を下した。
“仮発禁”が下された翌日(12月1日)、全国でも数少ない取り扱い書店となった「模索舎」(新宿)には開店と同時に『本』を買い求める人が続々と訪れた。
書名は『流出・公安テロ情報』(出版元・第三書館)。掲載されている情報は詳細かつ広範囲にわたる(全470ページ)。
冒頭から「警視庁外事捜査員の顔写真と家族構成」が飛び出す。公安刑事本人はもとより妻や子の名前・年齢・学校までが記載されている。
ページをめくって行くと捜査対象となったイスラム教徒の行動、交友関係などが実名で登場する。個人情報てんこ盛りだ。
このため全国ほとんどの書店で販売を自粛している。「紀伊国屋書店」は筆者の電話取材に対して次のように話した。「個人情報が記載され ているため販売を中止した。土曜日(11月27日)に入荷したが、不適切であることに気付きすぐに撤去した」(本社総務部)。
新宿御苑脇の閑静なエリアに店を構える「模索舎」。版元が持ち込んだ書籍を思想信条によらず置くのがポリシーだ。店にはひっきりなしに 問い合わせの電話がかかった。地方発送の依頼も数分おきに舞い込む。店員は右手で電話を取り、左手で客につり銭を渡す。大わらわだ。11月26日に入荷してから5日間で300部も売れた。近年にない“ベストセラー”という。
店員の男性によれば「(出版差し止めを求めた)原告の弁護士からファックスで『販売を自粛してほしい』との要請があった」という。店員は「警察は流出データを本物と認めていない。ネット上に置かれたままだとウヤムヤになってしまっていたかもしれない。『本』になったことで問題が認知された」とも語る。
「模索舎」の前では大きなマスクをかけ目深に帽子を被った中年男性が店の写真を小さなカメラで撮っていた。撮影が終わるとすぐに携帯電話をかける。明らかに公安刑事だ。ピンときた筆者はわざと声をかけた。「模索舎に用事ですか?」。次に名刺を渡そうと近づくと男性は路地に引っ込んだ。
やや間を置いて中年男性は入店し『本』を買い求め、そそくさと出て行こうとした。しつこい性格の筆者は追いすがってもう一度名刺を渡そうとした。「私、ジャーナリストですが・・・」。刑事は足早に。筆者が歩度を速めると刑事は小走りに帰っていった。
警視庁はデータを本物と認めていないのなら、無視すればよいはずだ。なぜ覆面をしてまで『本』を買う必要があるのだろうか。
【当局が狙うネット規制】
店内の客に話を聞いた。都内在住の男性(60代)は「自分の目で確かめたいので買いに来た。国民の知る権利を考えると裁判所の判断は微妙。完璧な『知る権利』というのはないが、内部告発などが出来なくなったりするのは困る。いずれにしろ重要な問題提起となった」。
会社を休んで買いに来た男性(50代・都内在住)もいる。「シロにもかかわらず捜査対象になったというだけで、実名が乗っているのは社会上の冤罪になる。一方でデータを流出させた警察の責任が問われないのもおかしい」。男性は率直に語る。
ネット上に流出した捜査情報は誰でも読むことができる状態だった。電子媒体が紙媒体になった途端、お上から「待った」がかかったわけだ。とはいえ、発端はネットだ。
今国会で成立した改正放送法では通信も放送の範疇に組み込まれるようになった。ネットも通信だ。当局(総務省)がその気になればいつでもネットへの規制が可能なのである。
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