日中双方が領有権を主張する尖閣諸島沖で海上保安部の巡視船に中国漁船が衝突した事件。公務執行妨害で逮捕し拘留延長までした中国人船長を那覇地検が“外交的配慮”で25日、突然釈放した。不可解極まりない動きの裏には仙谷由人官房長官の姿が見え隠れする。取り調べの可視化を握り潰して検察庁に「貸し」を作った官房長官が、今回の事件では検察を動かしたようだ。
那覇地検の鈴木亨次席検事が「今後の日中関係を考慮すると…」とメモを読み上げれば、仙谷官房長官は「(釈放は)那覇地検の総合的な判断と理解している」とシャアシャアと述べた。ご両人の話に納得する国民はほとんどいない。
“いつから検察庁は外交判断をするようになったのか?”と国民の多くは首を傾げる。“きっと仙谷さんが最高検を動かして釈放させたんだろう”との見方が広がっている。筆者は真相を探るべく永田町を歩いた。政界関係者の話を総合し、時系列で報告する――
7日、尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突した。故意にぶつけてきたと見た現場の海上保安官は「公務執行妨害」と判断し、船長の身柄を拘束。海上保安庁から報告を受けた政府は、逮捕すべきか、慎重かつ穏便に扱うべきかで意見が分かれていた。
逮捕すべきと強硬論を唱えたのは、海上保安庁を所管する前原誠司国土交通相(当時)と岡田克也外相(当時)。これに対し仙谷官房長官は慎重論を唱えた。菅直人首相をよく知る民主党関係者によると、首相は強硬派に乗った。結論は「逮捕」となったが、大モメにモメた。身柄拘束から逮捕まで12~13時間も要したのはこのためだ。
20日、事件は官邸と検察庁にとって予期せぬ展開となる。準大手ゼネコン「フジタ」の日本人社員4人が中国治安当局に身柄を拘束されたとの第一報が政府にもたらされたのだ。軍事区域でビデオを回したというもので、スパイ罪が適用されれば死刑もありうる。
船長を既定方針どおり起訴まで持ってゆけば、中国は報復として「スパイ罪」を適用することもありうる。「(強硬派に乗った)菅さんはただオロオロするだけだったはず」、前出の民主党関係者は語る。
22日、菅首相と前原外相が国連総会出席のためニューヨークに発つ。
24日昼前後、仙谷官房長官と大林宏検事総長が会談。
仙谷氏と検察庁は「小沢憎し」でつながる。「検事総長人事の国会承認」「取り調べの可視化」など検察改革を唱える小沢前幹事長は、検察にとっても不倶戴天の敵である。
「政権交代直後から仙石さんと検察は『反小沢』で気脈を通じて示し合わせていた。取り調べの可視化を参院選挙のマニフェストから外させたのは仙石さんだ」、可視化に深く関わった民主党関係者は解説する。可視化潰しで検察庁に貸しを作ったと冒頭書いたのは、このことである。
仙谷長官は財界からの突き上げなどもあり、船長を釈放してこの問題を早く決着させたかった。ただ政府が釈放させたという形にはしたくなかった。「政府は中国の圧力に屈した」とする批判が沸き起こるからだ。
指揮権発動を避けたい大林検事総長の心理を見透かしたように、仙谷官房長官が促した。大林検事総長は那覇地検に船長の釈放を命じた。
那覇地検の鈴木次席検事は釈放発表の記者会見(24日午後)で「今後の日中関係を考慮すると…」などと述べた。“捜査機関にあるまじき決定をさせられたのは、官邸からの圧力だった”ことを当て付けたっぷりに表したものだ。
反小沢で検察庁を味方に引き入れ、思惑通り事を進めた仙谷官房長官にも大きな誤算があった。船長の拘束を解けば中国は上げた拳を下ろすものと思っていたら、その逆だった。中国は要求をエスカレートさせ船長を拘束したことへの謝罪と賠償を求めてきたのだ。官房長官の猿知恵は裏目と出たのである。
「あれは仙谷さんのミス」。こんなフレーズが今、議員会館で飛び交っている。
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