派遣斬りなど突然の解雇に遭うと職、収入、住宅という生活に必要な物のすべてを失うケースが少なくない。職を求めてハローワークに並び、つなぎの生活資金を求めて社会福祉協議会に足を運ぶ。
さらに困った事態となれば市町村区役場で住宅手当や生活保護申請となる――手持ち金は残りわずかしかなく空腹を抱えて役所をさまようのが現実だ。
政府は緊急雇用対策の一環としてこれらの行政サービスをハローワーク1箇所で行う「ワンストップ・サービス」を30日、全国77箇所のハローワークで試験的に行った。
派遣村前村長で現・内閣府参与の湯浅誠さんのアイデアをヒントにしたものだ。湯浅さんは、貧困者の居住や生活保護申請を支援するNPO法人『もやい』の活動を通じて、職を失った人が役所を「たらい回し」にされる実態を目にあたりにしてきた。
東京・渋谷のハローワークには、湯浅さんを内閣府の一員に取り込んだ菅直人・副総理兼国家戦略担当大臣が視察に訪れた。今年も派遣村を作られては政権の失態となる。それを封じ込めるために湯浅さんを“口説いた”のが菅副総理だった。
「ハローワーク渋谷」には渋谷、目黒区役所の福祉課、社会福祉協議会の窓口も特設された。菅氏は区役所の担当者に手続きの流れなどについて尋ねた。
目黒区役所・福祉課の担当者は菅副総理に「(生活保護)申請者が最近はグッと増えている。にもかかわらず国からは(保護費を渡すのを)『絞れ絞れ』と言われるんですよね」とニガリ切った顔で訴えた。
「派遣村、繰り返すまじ」。試験とはいえ政府が鳴り物入りで実施した「ワンストップ・サービス」だが、生活保護、つなぎ融資、住宅手当などについて肝心要の申請手続きはできない。「お役所仕事」の限界だ。あくまでも相談に乗ってもらえるだけである。
「理想形の第一歩。要はセーフティーネットを途切れることのないようにすること」。湯浅内閣府参与は理想にほど遠い「役所仕事」のもどかしさに嘆息するかのように筆者に語った。