オバマ米大統領は24日、記者会見で「アフガニスタン戦争を終わらせるために数万人規模で増派することを来週、発表する」と明らかにした。発表は来月2日夕(日本時間3日)、国民向けテレビ演説で行う。
増派の規模は3万2千~3万5千人(現時点のアフガン駐留米軍は6万8千人)で、来年2月か3月に実施されそうだ。オバマ氏は増派の理由を「アフガニスタン-パキスタン国境(部族地帯)に潜伏するアルカイーダの力を削ぎ落とし、アフガンで活動できなくするため」と説明している。
本気で言っているとしたら、この大統領は軍事オンチだ。それとも、国防総省から虚偽の報告が上がっているのだろうか。あるいは国防総省が認識を誤っているのか。
アフガン-パキスタン国境の部族地帯にいたアルカイーダは、米軍の空爆によりパキスタンに流出した。パキスタンでテロ爆破事件が頻発しているのはこのためだ。警察署やホテル、公共施設などが自爆テロの標的とされている。
オバマ氏は「アフガン戦争を終結させるため」としているが、増派して部族地帯からアルカイーダを追い出しても戦域がパキスタンに広がるだけだ。
米軍がアフガニスタンから撤退すれば、早晩アルカイーダがパキスタンから攻め上ってくるのは必至だ。米軍にとっての戦争は終結したとしても、アフガンでは新たな内戦が再開されることになる。
大きな不安材料は『出口戦略』である。これが大統領自身からも安全保障担当のアドバイザーからも未だ語られたことがない。これで「外交と軍事作戦による包括戦略」(オバマ大統領)などと説明されても、国民は首を傾げるだろう。
増派をめぐっては大統領のお膝元の民主党からも批判が噴出している。「経済再建を台無しにする」との声が最も根強い。
AP通信の軍事担当記者によれば、アフガン駐留経費は兵1千人につき毎年10億ドル。現在6万8千人だから単純計算すれば毎年680億ドルを費やしていることになる。3万5千人増派すれば、さらに350億ドルを要する。戦費は年に1千億ドルを超えることになるのだ。
リーマンショックが尾を引き、主力の自動車産業が不振に喘ぐ米国の経済はガタガタだ。失業率は10%に達し、失業者は1千500万人を超える。戦争などしている余裕はない。
『ヘラルド・トリビューン』紙によれば、民主党のベテラン議員らが、増派に反対して、「戦争税」の導入(2011財政年度から)を検討していることを明らかにした。代表格のオービー議員(ウィスコンシン州選出)は、「納税拒否者の続出により戦費の調達ができなくなり、戦争遂行も不可能になるから」と説明している。
オバマ大統領の増派決定より8日前、最大の同盟国である英国のブラウン首相は「アフガンからの撤退を促す」演説をしている。
オバマ氏がよほど明快な出口戦略を示さない限り、現在は成立する可能性が極めて低い「戦争税」が現実味を帯びる。