「オレ保険証持ってないからなあ」とあきらめているワーキングプアや、「病院はお金がかかり過ぎて…」と二の足を踏んでいる主婦に心強い味方が現れた。500円で予約も時間も要らずに健康診断ができる店が東京・中野に登場した。看護師の川添高志さん(26歳が開業した「ケアプロ中野店」だ。
若者や買い物の主婦などで賑わう「中野ブロードウェイ」の一角に社長の川添さんと店長で看護師・保健師の浅井裕美さんが常駐する。奥行き1メートル足らず、間口5メートルほどの細長い店だ。
健診項目は「血糖値」「総コレステロール」「中性脂肪」「身長・体重・BMI・血圧・骨密度」の4つで、それぞれ500円。4項目セットだと1500円となる。1項目1分余り、4項目すべて受けても7分だ。予約も要らない。もちろん保険証も不要だ。
利用者の2割がフリーター、3割が主婦である。病院で健康診断を受けると6千円~1万円はかかる。その日暮らしのフリーターや一家の財布を預かる主婦が、おいそれと受診できる金額ではない。
川添氏が中野にワンコイン健診の店をオープンしたのは、若者や主婦が多い街だからだ(若者が多ければ自ずとフリーターも多くなる)。川添氏は健康診断を受けることが困難な「健診弱者」にこだわる。
医療の道に進むきっかけになったのは高校生時代に参加した老人ホームでのボランティアだった。介護ヘルパー2人でお年寄り20人の世話をしていた。入浴後濡れたまま服を着せられるお年寄りを見て、ヘルパーがいくら頑張っても限界があると痛感した。「枠組みから変える仕事がしたい」と強く思うようになった。
大学は医療看護学部に進んだ。学生時代に米国のスーパーで「ミニッツ・クリニック(1分診療所※)」を見て、日本もやがてこうなるだろうと閃いた。
川添氏の予想は的中した。厚労省によると健康保険証を取り上げられた世帯は33万世帯に上る。1世帯平均3~4人として100万人が事実上病院にかかれないのだ。制度上「保険証がなくても病院は診療しなければならない」ことにはなっているが、貧困世帯が10割負担などできようはずがない。国民皆保険制度は破綻しているのだ。
生活習慣病は死因の7割、医療財政の3割を占める。生活習慣病の多くは健康診断でチェックできる。皮肉なことに貧困層ほどコレステロールの高いファーストフードやラーメンなどで腹を満たす。生活習慣病を患いやすい食生活だ。だが健康保険証を持っていなかったり、費用面で無理だったりするため健康診断が受けられない。
来店した派遣労働者が川添社長にこぼした。「同じ仕事をしているのに社員は会社の健康診断が受けられて、俺たちは受けられない」。
憂き目に遭っていた「健診弱者」も、中野までの電車賃と500円玉があれば健康診断を受けることができる。「ネットカフエで健康診断をやってみたい」。川添氏は意欲をのぞかせる。
医師不足や財源不足で病院の廃業が相次ぐ地方の都市や農漁村でも展開できそうだ。
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(※筆者注)
国民皆保険ではない米国ではスーパーに健康診断施設がある。利用者の多くは貧困層だ。