ブッシュ政権の間ピタリと止まっていたパレスチナ和平の歯車をオバマ政権が動かし始めた。ヒラリー・クリントン国務長官は27日、西岸での入植地建設を止めるようイスラエルに呼びかけた。「オバマ大統領が求める凍結に例外はない。入植地建設に関わるすべての活動を止めるべきだ」と強い口調で述べた。
18日にはオバマ大統領自身がイスラエルのネタニヤフ首相に「入植地建設の凍結」を求めている。「強烈な2国家並立論者」と自称するオバマ氏は「もしイスラエルが長い目で国益を考えるのならパレスチナと共存すべきだ」とも述べてネタニヤフ氏を説得した。
だがネタニヤフ政権は28日、「入植地建設の凍結要請」を拒否した。クリントン国務長官が要請した翌日である。
ネタニヤフ氏が党首を務め連立政権の核である右派政党「リクード」の支持基盤は入植者である。自らの足元を揺るがすような米国の要請に、従うわけにはいかない。ネタニヤフ政権が断固拒否する事情だ。米国へは「人口の自然増に対応するため」と説明しているが…。
西岸(ウエスト・バンク)はヨルダン川の西側にあることから、そう呼ばれる。愛媛県とほぼ同じ広さの土地にパレスチナ人200万人余りとユダヤ人28万人が暮らす。ユダヤ人が住む入植地は121ヶ所もある。
夥しい数の入植地はパレスチナ人居住地域を分断するように存在する。イスラエル軍が駐留し、パレスチナ人居住地域は高さ7~8メートルのコンクリート壁で囲い込まれる。イスラエルの安全保障のためだ。
イスラエル政府は国策として入植地を拡大し、入植者を増やしてきた。他地区と比べて税制を優遇するなどしたためロシア、東欧などからユダヤ人が続々移住した。政策による「自然増」なのである。
西岸は第3次中東戦争(1967年)でヨルダンから占領した土地だ。同戦争を受けて開かれた国連安保理で「イスラエルが占領地から撤退することを確認する」(決議242号)とされている。
パレスチナ和平のために米・露・EU・国連が2003年に策定した「ロードマップ(行程表)」でも、「占領地からの撤退」が盛り込まれている。それも行程の第一段階で、期限は03年5月までだ。
国際社会は40年以上に渡ってイスラエルに対して「西岸から撤退するように」と言い続けているのである。ガザからは2005年に撤退したが、西岸の入植地は拡大し入植者は増える一方だ。
西岸のパレスチナ自治区はガザと比べれば物が溢れ、街も小ぎれいだ。欧米からの援助金を一手に握り西岸を支配する自治政府はファタハである。パレスチナ自治政府議長でファタハ指導者のアッバス議長はパレスチナ人から「犬」とバカにされるほどイスラエルに対して従順だ。
ガザを支配するハマスと違ってイスラエルに反旗を翻さなければ、そこそこ豊かになれる。それを知ってしまった西岸のパレスチナ人が蜂起することは考えにくい。
イスラエル政府は、撤退する気は毛頭ない。パレスチナ自治政府はイスラエルに従順。撤退を願っているはずのパレスチナ人は損得勘定から大人しい。
オバマ政権がいくら圧力をかけても当事者にその気がなければ、「撤退」も「凍結」も空念仏となるだろう。