東京都知事選がきょう告示され、17日間にわたる戦いの火ぶたが切られた。脱原発陣営は一本化に向けた努力もむなしく分裂選挙に突入した。昨日まで肩を組んで原発反対運動に取り組んでいた仲間が別々に選挙戦を戦う。
新宿西口で行われた宇都宮けんじ候補の街頭演説には、共産党の志位和夫委員長、社民党の吉田忠智党首らにまじって福島県三春町在住の武藤類子さんの姿があった。武藤さんは原発事故がもたらした甚大な被害をめぐる東電の刑事責任を追及してきた。
街宣車の上に立った武藤さんは各党のリーダーと肩を並べながらマイクを握った――
「ここに来たのは東京のありようが福島にも大きな影響をもたらすと思ったからです。都会の繁栄は地方の犠牲の上に成り立つという構図をこの原発事故によって思い知りました」。
「エネルギーの使い方や暮らしのあり方について都民がちゃんと向き合える環境を作り、地方を犠牲にしない社会を作ってほしいと心から思っています。脱原発を東京都民から広げて行ってほしいと思います」。
街宣車から降りてきた武藤さんに脱原発陣営が割れることについて尋ねた。
武藤さんは「とても残念なこと。自分もずいぶん悩んだ」と苦悩の表情を浮かべる。言葉を続けた―「尾を引くことがないように、目的を見失うことがないように。選挙で分裂してしまうような脱原発運動ではありませんよ」。
渋谷スクランブル交差点(ハチ公前広場)は、2人の元首相を一目見ようという人たちで一杯になった。細川護煕、小泉純一郎の両氏が大衆の前に姿を現すのは久しぶりだ。街宣車の周りは私服と制服の警察官たちで寸分の隙もない。厳戒態勢だ。
間もなく両氏の演説が始まろうという時、ド派手な いでたち の女性が現れ、警察官たちをまごつかせた。
女性は「脱原発」と原色で書いたエナメル地の帽子を被り、「原発このままでいいの? 自然豊かなあなたの故郷を第2の福島にしてはならない」と書いた大きなゼッケンをスッポリと被っている。
女性は柏崎刈羽から10キロ圏内に住み反原発運動を続けている、という。新潟からは一昨日、出て来たそうだ。
「東京都知事が再稼働を止めれば、柏崎刈羽の人たちも あきらめ がつく。そう思うと居ても立ってもいられなくなった」と話した。
選挙期間中、東京のビジネスホテルとスーパー銭湯を転々としながら脱原発候補の応援を続ける、という。「私の格好を見るとアベノミクスに賛成しているホテルは泊めてくれないのよ」。女性はいたずらっぽく微笑んだ。
~脱原発で同じ方向を向けば~
脱原発陣営が分かれて選挙戦に臨むことを若い世代はどう捉えているのだろうか。ハチ公前で聞いた。
「(原発問題を)国民に提起できたことはいいと思う」(30代・主婦)
「分かれても(脱原発で)同じ方向を向いてくれていたら問題ない」(20代女性・会社員)
2人とも分裂選挙をドライに受け止めているようだった。「分かれても同じ方向を向くべき」という考え方は福島の武藤類子さんと似ている。
双方で脱原発の世論を喚起し合って投票率を上げる。今となってはそれを目指すべきだ。でなければ原子力村やそれにブラ下がる勢力を喜ばせるだけだ。