12月6日は歴史のコマが逆戻りを始めた日となった。この日は今国会最大の争点である「特定秘密保護法案」の強行採決があるとの見方が強まっていた。
国会周辺では朝から市民らが同法案に抗議する声をあげていた。
夜のとばりが降り切った頃には3万を優に超える人々が押し寄せていた。日比谷野音で開かれていた反対集会の参加者がデモ行進の後、流れて来たのだ。
平成の治安維持法は可決成立すれば1年以内に施行される。知る権利や表現の自由を奪われる危険性がある。国会周辺に集まった人々は危機感で一杯だ。
議事堂正門前は殺気さえ漂っていた。午後9時、参院本会議が始まる。それから15分後だった。正門に向かって左側の歩道に陣取っていたデモ隊の最前列が、警察のカラーコーンを蹴飛ばすと、デモ隊は雪崩を打って前に進んだ。国会突入を図ったのである。
制服警察官が二重三重にピケを張り、デモ隊の前進を阻んだ。議事堂正門前には機動隊員の輸送車が寸分の隙間もなく並べられた。前に進もうとするデモ隊と警察隊との間でしばらく揉み合いが続く。「強行採決、絶対反対」の合唱が響いた。
左側の歩道が鎮静化すると、今度は右側の歩道のデモ隊が突入を図った。こちらも警察との間で壮絶な揉み合いとなり、2人が逮捕された。
三重県から参加した男性(40代・自動車修理会社経営)は、10歳の息子と共に最前列近くで様子を見ていた。「本当は連れて来たくなかったけど。子供が新聞を読み“父さん、行きたい”というので連れてきた。現実を知らせるのもいいと思ったから」。
男性は隊列を組んでいる警察官一人ひとりに語りかけた。「子供はいるのか?」「僕たちは子供を守りたいだけなんだ」。
そばにいた息子は「戦争なんて絶対いやや」と顔をしかめた。
午後11時23分、「特定秘密保護法」が参院で可決成立したことが伝えられると、議事堂前のデモ隊から一斉に「ウォー」という怒号があがった。一瞬あって「採決撤回」「採決撤回」のシュプレヒコールが起き、しばらく鳴りやまなかった。ある参院議員によればデモ隊の声は議場にも聞こえるという。
練馬区から足を運んだ母と娘の目には涙が溜まっていた。「政治は国民のためにあると思っていたが、政治が国民を見捨てた」。娘は厳しい まなざし を議事堂に向けながら話す。
「私たちが民主主義に甘えて、民主主義を大事にして来なかった結果です」。母親が いみじくも 語った。
《文・田中龍作 / 諏訪都》