民族差別・排外主義に抗議する院内集会で、ある男性が指名され発言の機会を得た。男性(30代)は関西在住で在特会らと行動を共にしていたという(入会してはいなかった)。
男性は大きく深呼吸して話を始めた。「民主主義を実現する手段としてデモがあると思い、当時注目を浴びていた在特会らのデモに参加するようになった……」
男性は自らが参加し記憶に残っているデモを幾つか挙げた――
2009年5月、日本の近現代史を描いたNHKの番組「JAPANデビュー」に抗議してNHK大阪放送局、神戸放送局にデモを掛けた。
2009年秋から翌年にかけては在日韓国人への参政権付与に反対するデモに参加した。「鶴橋を火の海にしてやる」というヘイトスピーチが飛び出したのも、2009年秋に行われた鶴橋のデモだ。
「放火」まで宣言する彼らには罪の意識が全くなかった、という。男性は在特会らをもともと斜に構えて見ていたが、猜疑心はさらに強くなった。
在特会らを見限ったのは2009年末に起きた「京都朝鮮学校襲撃事件」だった。男性は襲撃には加わらなかったが、ネット動画で襲撃のもようを見た。「負の情念に飲み込まれそうだった。恐ろしかった」。男性は当時を振り返る。
以後も男性が在特会らのデモに参加することはなかった。
京都朝鮮学校襲撃事件とは、2009年12月、京都市南区にある同校に在特会らのメンバーなどが押し掛け、拡声器を使って怒号をあげるなどして威力業務妨害罪などに問われた事件だ。
メンバー11人は校門前で「ろくでなしの朝鮮学校を日本から叩き出せ」「わしらはね、これまでの団体のように甘くはないぞ」「早く門を開けろ」などと執拗に威嚇し続けた。46分間に及ぶヘイトアクションだった。(ウィキペディアにもとづく)
眉をひそめたくなる事件は翌2010年にも起きた。朝鮮学校に寄付を行った徳島県教組の事務所を4月、在特会らが襲撃したのである。
「越えてはならない一線をまた越えてしまった」。男性はこの事件を機に在特会ウォッチャーとなった。
すでに在特会から離れていたが、かつての仲間は気になった。今年3月大阪御堂筋で繰り広げられたヘイトデモがダメを押した。男性はニコニコ動画でデモを見た。
「“在日(韓国・朝鮮人)の女を見たら、石を投げてレイプして殺せ”と発言した男がいた。かつての仲間だった。彼とは食事を共にしたことがある」。
「在日の女性にも知人がいる。知人が知人を“レイプして殺せ”という。非常にショックを覚えて、吐いた」。
「絶対に許してはならない。いま運動に参加している人たち。迷いを覚えている人たち。一刻も早く身を引いて頂いて、このようなことが日本からなくなることを切に願う」。
新大久保のヘイトデモで、筆者は隊列のなかに入って参加者たちと会話するが、“確信犯”はごく一部だ。1割いるか、いないか。
男性の心の奥からの叫びを、できるだけ多くのデモ参加者に聞いてもらいたい。