現地時間の2日正午頃(日本時間午後7時頃)、クリミア自治州の州都シンフェロポルに着いた。マシンガンで武装した兵士たちが空港を固める。国名を表す印や階級章は付けていないが、ロシア軍兵士と見られている。
驚いたのは彼らが嫌な顔ひとつせずに写真を撮らせることだ。米軍の従軍取材ならいざ知らず、紛争状態にあるなかで軍隊の写真を撮ることは厳禁である。その場で撃ち殺されても文句は言えない。カメラ、メモリーカードの没収で済めばいい方だ。
ここではロシア軍のものと見られる装甲車も写すことができる。まったく信じられない。 “ 我々はいつでもウクライナを軍事制圧できるんだよ ”と誇示しているようだ。
州議会・州政府前の広場ではロシア系住民たちが集まりロシアの旗をふりかざす。ソ連の国歌やロシアのフォークソングがスピーカーから大音量で流れ、いやが応にもナショナリズムをかき立てる。
広場に集まっているのは地元住民ばかりではなかった。モスクワから駆けつけた男女もいた。アレーザ・パブレコさん(編集者・女性23歳)とティトフ・ミハイルさん(会計事務所所長・男性40歳)だ。
2人は口をそろえて「同胞を助けに来た」と話す。ミハイルさんは歴史をさかのぼってウクライナがロシアの一部であったことを強調した。「1954年、フルシチョフ(書記長)がクリミアをウクライナにプレゼントしたのは歴史的な誤り」とまで言った。
クリミア半島でマイノリティーのウクライナ系住民やタタール人は、つい1~2日前までマジョリティーのロシア系住民と激しく衝突していた。だがこの日は姿が見えなかった。ロシア軍がクリミアを事実上制圧した環境のなかで、ロシア系住民と衝突すれば、自分たちも制圧される。ウクライナ系住民たちはそれを恐れたのだろう。
ロシア系住民は、「ロシアは希望者にパスポートを発給することを約束した」と顔をほころばせる。
ロシア上院はすでにウクライナへの軍事侵攻を承認している。「自国民の保護」を口実にいつでも本格介入できる状態に入った。マッチポンプがなければよいのだが。