冤罪をなくすために導入が検討されている「取り調べの可視化」が危うくなっている。新しい司法制度の在り方を検討している法制審議会(法務大臣の諮問機関)の特別部会が今月28日にも「可視化の範囲」などについて一定の結論を出す見通しだ。
特別部会の「基本構想」では、可視化(録音・録画)は次のようになる―
①裁判員制度裁判の対象事件に限る。
②原則的に全過程の録音・録画を義務付けるが、一定の例外(取り調べや捜査に支障を来す場合)を設ける。
③録音・録画の範囲を取調官の裁量に委ねる。
②と③が示すように「可視化の実現」は厳しい。厚労省の村木厚子局長が郵便不正で逮捕・起訴された冤罪事件などを受けて、法務省が世論に尻を叩かれる格好で渋々立ち上げたのが特別部会だった。
部会には弁護士や有識者も入っているが、中心は検察、警察関係者だ。事務局も検察が事実上支配する法務省に置かれている。「可視化の実現」を期待する方が土台無理なのかもしれない。
“冤罪をこれ以上繰り返してはならない” 危機感を抱く弁護士や人権団体などがきょう、「取り調べ可視化」の実現を求める集会を国会内で開いた。
集会では実際に冤罪に陥れられた人が自らの体験を語った。性犯罪の濡れ衣で逮捕された男性(都内在住)は、取り調べの酷い実態を明らかにした―
「警察から“容疑を認めたら携帯電話を使っていいよ”などと言われた。こうして認めさせて警察は思い通りのストーリーを作る」。男性は家族に連絡を取りたいため容疑を認めた。裁判は自白偏重だ。有罪となり懲役9年の実刑判決を受けた。
記者クラブメディア(新聞・テレビ)は検察リークと警察発表を受けて報道する。このため世の人々は「冤罪」が氷山の一角であることを知らない。
「二度と冤罪を作らないで下さい」。東電OL殺人事件で無実の罪を着せられ15年間も獄中に閉じ込められたゴビンダ・マイナリ元受刑囚が残した言葉である。法務省はゴビンダ氏の悲痛な訴えを意に介していないようだ。冤罪は果てることなく繰り返されるのだろうか。